【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

◇凛冽たる朝凪◇ ページ34

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何やら守護棟と名の付いた御山に籠っている兵士共が、いつからだったかなど
覚えるつもりもないが、“長の一人息子が剣を置いた”なんて騒いで居るようだ。

それはつまり、守護団体長の息子であれば当然ながら守護団体に所属していたものの
近頃になって兵士である事を止め、姿を消したのを意味する。

成程、最近の親は目の届く所に子供を縛り付けておかなければ気が済まない訳か。
しかし正直な話、此方の知った事ではない、いい迷惑だ。



「(親も勝手にしているなら、子供にも勝手をさせておけば良いものを……)」



まあ、それも子供の勝手を許さない親の勝手という事か──内心、小さく笑う。

第二都市で、やって来た客から依頼を貰った凪斗は
その依頼を達成する為に、近所と言っても過言でない大都市へと渡って来ていた。


ただ、今まさに思って居た守護団体長の息子の捜索などではなく
それとは全く関係の無い、少々面倒な長期依頼だ。

とは言え彼は簡単な依頼を受けようとしないので
面倒になるのは当たり前、本人の手により故意に作り出された必然である。



「(……まずは大都市に、巨大な火と光のクリスタルの所有者が居る。
そいつに依頼者が渡した証明書を差し出し、クリスタルを受け取る──)」



面倒なりに色々と過程はあるが、ともかく最終的には魔物討伐に至る依頼である。

本来なら守護団体に依頼するところだが、この依頼者は頼めなかったのだろう。
仕方あるまい、奴等はどうしようもない堅物なのだから。

──対して探偵の本来の仕事は探す事、探る事、つまりは調査だ。


でも探偵にそぐわない依頼を持ってくる愚か者は、このように疾うに手におえない程
居るのだし、そんな仕事はそんな事を思って居る奴がやっていれば良いのだ。

目的地まで歩を進めつつ、喧騒の絶えない大都市の様を眺める。
中には見覚えくらいはある探偵の姿があった、あれは例の息子探しに出ている奴だ。

そのまま、何の興味も無く前方に視線を移した──その時。



「…………?」



丁度、目の前に名も姿も覚えの無い男が立ちはだかったのを認め、足を止めた。
あと一歩進んで居れば衝突し兼ねなかった距離、明らかに此方に意識を向けて居る。

今までにも少なからずあったが、ついにこの都市のど真ん中で現れたというのか。
気に喰わない探偵を殺めようとする存在が。

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