【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

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翌日の朝も外に出ていた僕は、今日はしっかりと青色の顔を見せている空を見る。
あの問いかけを受けてから、僕の心の中にある悩みは更に渦巻いた。

──兄は探偵となる事を望まない、だが僕は探偵となっても構わない。
しかし、父は僕等兄弟がその道を辿って行く事を望まない。



「(探偵になっても構わない……でも、僕は“なりたい”のか? 探偵に……?)」



正直、悩みに悩むせいで“なる”のを考えるのが億劫になっている自分が居る。
だが改めて、状況を整理する為に自分や父や兄の立場を考える。

跡継ぎの話だけを除いて考えれば、父という人物は僕の──兄にとっても誇りだ。


普段は人当たりが良いし、良くも悪くも自分の考えをしっかり持っている。
知識も、多方面に渡り申し分ないのをよく痛感させられた覚えがある。

探偵としての依頼の解決力、それに相応しい人気ぶり。
父も以前は、子供にも自分と同じ探偵業をさせてやれたらと純粋な思いで居た筈だ。



「(でも父さんが焦り出したのは、母さんが亡くなった事と……)」



母が無くなった当時に、また一方で、父とは別の探偵が知名度を上げ始めたのが
跡継ぎの話を気にしだしたきっかけだったように思う。

確かその人は父と同じ歳頃の男性であり、都市中では見かけない姿だったので
恐らく、別の街からこの都市に渡って来た探偵なのだろう。

彼の方も実力は確からしく、自分の客があちらへ流れてしまっては困ると
父はライバル視しながら、更に名声を上げていっている。


しかし探偵は職業柄、人の恨みを買いやすい立場でもある。

別の探偵から有名な事を妬まれるとか、仮にある依頼で失敗してしまった場合の
依頼者の怒りや、達成したとしても、依頼中に何らかの形で関わった者の──。

いつ命を失うかわからない、そう言っても決して大袈裟などではない。



「(だから父さんは、一刻も早く家督を譲れる兄さんに探偵になって貰いたいんだ。
……父さんが恐れているのは、僕等の家系が消え去ってしまうこと)」



かと言って、父の家族である僕等兄弟の身も危険の中にあるのには違いない。
次の担い手が決まったからと、何かしら安全が保障された訳ではないのだ。

でも──いや、やはりもうこれ以上あれこれと考えるのはやめよう。
結局は最初の悩みに後戻りするだけだ。果たして僕は探偵になるのかならないのか。

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