【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

＋ ページ28

「…………まあ良い。何を企んでいるのか知らんが、妙な真似はするなよ」



少しでも怪しい身動きがあれば、すぐにでも家から追い出してくれる。
相変わらず一歩も引く気のない様子の老輩に、一つ言って突き放す。

人数の計り知れない強大な組織があろうが、権力の底が知れない貴族だろうが
誰が相手となっても、自身が探偵として屈するつもりなど毛頭ない。

──俺は、絶対に親父のようにはならない。



「ところで、本日の正午までの御予定ですが」

「…………(俺の日程まで管理してやろうというのか)」



……まあ老輩が何のつもりだろうが知った事ではないが、ただ一つだけ参った話。

“これ”は、俺が嫌悪している貴族を相手に珍しく依頼を受けてやった際
その貴族に仕えていた執事の老輩で、言ってしまえば“出来る奴”の類だった。


一定の業務も家事全般も熟し、気配りも出来る。
正直、お気楽な貴族の許に置いておくには惜しすぎる人材。

だが貴族に仕えて居れば給料は弾んだだろう、だからこそ俺に仕えたいと言い出した
此奴の思考が理解不能で、警戒を解けずに居るのが現状だ。



「どうやら、守護団体の隊長殿から御声が掛かっていらっしゃるようですが……」

「……──ああ、先日の……大都市の方で潜んでいた組織の居場所を暴いた件か。
それを口実にして、今までの俺の探偵業の功績を称えたいという話だ」



しかし、例の組織の居場所が割れたのも偶然の産物だった。

今まで俺が熟してきた仕事全てが偶然のお陰で達成出来た訳はないのだが
時に運がよく働く事もある──いや、自身の勘が頼りになっていると思っておこう。

ともかく考えていたより呆気なく解決された案件が大都市であったのだ。
それが、守護団体が“俺”という探偵の存在を知るきっかけとなった。



「下らん。幾ら称えたいからと言って、俺は野次馬共の見世物になる気はない」

「行かれないのですか?」

「……その口振りは“行け”と言いたいようだな」



俺は有名になりたくて探偵を始めたのではない。
故に、守護団体が招く表彰の壇上にあがる意味など皆無に等しい。

言い捨てた俺に、老執事が念を押すように問い掛けてくるので、真意を聞き返すと。



「私は探偵業には疎いですが、第二都市には他にも多くの探偵が存在すると
伺っております。今回の御話は、それらの存在を牽制するには良い機会かと」

「──つまりは俺が、他者を牽制しなければならない程度の実力者だと?」

＋→←＋

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す