【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

◇俊翔を目指す者◇ ページ22

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あれから、俊也が持ち寄ったクリスタルの原石を元手に
翔がクリスタルに精製し、売る事で金銭を稼ぎ続ける日々を送る事、数年。

日常生活でも重宝されるクリスタルはよく売れて、着実に稼ぎは入って来た。

おかげで旅の為の資金は十分に集まり、
翔も外出するのによく見合った清潔な衣服を身に纏えている──そして。



「……うん。やっぱ俺が思うに、一番アーラの手掛かりに近いのは北の街かな」



現在、大都市の公共施設の中でも特に静かな資料庫に、翔と俊也の二人は居た。
彼等はその一角で、周辺の東西南北に存在する街々の位置や情報の確認をしている。

当然ながら情報源は専らこの資料庫に限ったが、
それでも流石に多くの資料数を誇っているこの場所だ。

各街に何があるのか、特徴や大都市からの距離や通行手段まで把握出来たのだから。
その情報を元にし一人頷いた翔の声に、手元の地図から顔を上げた俊也が返す。



「だがその前に一度、西の街に立ち寄ってみてはどうだ」

「西の街に? あっちは大都市から少し離れていて、旅客船も出てないぜ?」

「ああ、わかっている。ただ……北の街は鉱石生産の場だが、その原石を
クリスタルに生成しているのは、西の街に住む、翔のような“造形師”達だろう」



鉱山のある北の街は原石が採掘される唯一の場所である一方
西の街は、他のどの街よりも大量のクリスタルが生成される場所。

アーラも機械だから、その動力源は十中八九クリスタルにあると睨んで
クリスタルに深い関わりのある街々を注視して来たのだが……。

行くなら北の街しかないと思って居たらしい翔は、俊也の提案が
新たな選択肢に思えたようで、多少戸惑ったような素振りを見せる。



「うん、まあ造形師って呼ばれてる人達には会ってみたいと思うけどな」

「…………お前も大差ない能力を持っている造形師だろう」

「どうだかなぁ?」



暗に“買い被り過ぎだ”と言って笑う翔に、俊也は呆れた視線を送る。

──これは後々、俊也が度々口にしているのを聞いた翔が新たに知った事だが
どうやらクリスタルの作り手の事を、人々は“造形師”と呼んでいるようだ。

しかし改めて言葉にされると何だか仰々しく感じて、謙遜してしまうのが翔だった。
まあ、その話は今は良いだろう。すぐに思考を切り替えて話を進める俊也。



「職人達の集まる場所の方が、もしかしたら情報も多いかもしれない」

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