【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

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何となく頷き返しながら、少し意外に思った。俊也でも知らない事ってあるんだな。
俊也ほどの人間なら何でも知ってそうな気がするのも、単なる俺の固定観念か。

まあ知ってるヤツは知ってるみたいな話だから、本当はこれが当然の反応だけど。



「…………その、“アーラ”というのが気になるのか」

「その言葉を知ってる奴の、誰もが気になってると思うぜ。
何せそれは、世界のどこかにはあるけど、誰も姿形を見た事がないって話だ」

「──見た事がない? なのに、“ある”のはわかるのか?」



流石だ、ただぼんやりと噂話をしているような感覚だったのに
言葉を交わしていれば、俊也は直後に話の矛盾点に気が付いた。

俺は資料庫で偶然アーラに関する資料を見かけた時、それに詳しい人が
丁度良く付近に居たから、その人の話を聞いてやっと気づいたくらいだったのに。



「ああ、なんかそうっぽいな。しっかり調べた訳ではないから詳しくは言えない
けど、ただ……それは遥か以前に作られたって言われる飛行型の機械なんだって」

「……だが、誰も実物を目にした事がない。つまり在処もわからない」

「そういう事だ。なのに資料の中で、そいつは存在してる──不思議な話だよな」



だから一度きり、興味本位で立ち寄っただけの資料庫だったけれど
妙にアーラに関する話ばかりは記憶に残ってて、今も脳裏の奥底で燻っている。

まるで忘れちゃいけない事であるかのように、時にそれが顔を見せて思い出す。
何もないスラム街での生活の中で、それだけが俺の中での動いた出来事だ。



「アーラは、その手の研究者や探検家でも未だに見つけられていない。それはもう
何十年と。だからか、いつしかアーラを見つける事は夢の話になったんだとさ」

「……それは翔にとっても夢なのか?」

「んー……ちょっとだけ……気になるっていうか。
いや、やっぱ見てみたいな。誰も知らない物だって言われると」



話をしていると、段々と俺の心の素の思いが自然と口から出て来るようだった。
おかしいな。今までこんな事、一度だって無かったのに。

──でも気楽な心地だ、まだそう何日と顔を合わせた間柄でもないのに
俊也を前にすると、何でか気心の知れた仲のような感覚に陥る。



「だからさ、俊也……もしお前が良ければ、一緒に探しに行ってみないか?」



俺がそう俊也をアーラ探しの旅に誘うのは必然なような気がした。
ここからまた、“俺達”の中で新しい何かが動き出すんじゃないかって。

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