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あれには面食らった。ただ、その言葉をすんなりと受け入れている俺が居る。
──生き辛くて大変、生活に困った覚えのない俺もそんな事を思っているのか。
「……父さん! 貴方はお気づきでしたか、
守護団体の内ですら安全が守られたものではないこの実状を!」
守護棟に戻ってきた俺は、すぐに父親の許へ赴き
都市内で目にしてきた守護団体の姿について訴え出ていた。
執務を続けていた父は、俺がこうして来る事をわかっていたかのように動じない。
「もちろん気づいている。お前もすぐに気づけるだろうと思っていた」
「では何故……! 守られるべきを守り、裁かれるべきを裁かないんだ!」
「ああ、その通りだ。守られるべきは私達が守らなくてはならない。
そうなれない者はこの組織では不義だ。……だが、それを裁く事は出来ない」
守護団体の隊長という立場を得ても、それは絶対の権力ではないのだ。
我等はあくまでも守護者であり、君主などではない。
「そして……私達人間の一人一人もまた、完全ではない。身一つで、守られるべき
全ての者達を守る事は不可能だ。結局のところ──守れるものだけしか守れぬ」
「──だから、守れるものだけ守れば良いのだと?」
「そうならざるを得んだろう」
父の言葉を聞きながら、正しいながらにそうとは思いたくない矛盾が生まれる。
俺の意思があるのはそこではない──思いが至った時、
懐に携えていた剣を鞘ごと抜き取り、そっと目の前に置いた。
「……父さんが治めるこの組織は、俺にとっての誇りだった。
そして、父さんから与えられたこの剣は、俺の信念そのものです」
「…………」
「俺の守護団体への理想が打ち砕かれた今、
俺はもう、この剣を取って迷いなく振るう事は出来ない……」
「その剣を置き、武器を失い、お前はどうするつもりだ?」
「俺は……! 俺自身が確かに感じたこの思いを、意思を信じる!
──俺のやるべき事はここには無く、ならば俺の居場所はここではないのです!」
この言葉が、当時の俺の思いの全てだった。
俺の口下手は父親譲りなのだろう。その後に父から返されたのは、ただ一言。
「…………俊也。後悔するな」
それに対し俺もただ深く頭を下げ、その場を立ち去った。
「(──我等の剣は、民の安寧のために。我等の誓いは己が意思の象徴なり)」
きっと、二度と“此処”へ戻って来る事はないだろう。
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フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» 彼が生まれた家庭は決して悪くはなかった筈ですが、結果的には父の諦観や母の夫への執着が崩壊を招きましたね……。Fshは舞台やキャラ設定を一から作っているオリジナル作品なので、そう言っていただけるとは思わず天にも昇るほど嬉しいです! 本当に有難うございます;; (2017年7月19日 1時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーふぉー(DS) - フェイルさん» 凪斗様キター!家庭環境、世間様が大好きな精神的虐待のネタになりそう…フェイルさんの文章がすごくさらさらと読めて、楽に読み進められるので偶に他シリーズやFshなども読み返させていただいてまして…そのなかでもFshの世界観がすごくすきです!((突然の告白 (2017年7月17日 0時) (レス) id: efac798cd6 (このIDを非表示/違反報告)
フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» 許嫁の件は、あの物語自体すぐに終わってしまったのであまり脈絡のない話だったかなあと今更ながら首を捻っています;; でもあれで本作の夢主が誰のもとに向かうのかという指標にはなったかもしれません。どのキャラでも、創作キャラに関心をもってくださり嬉しいです! (2017年6月10日 15時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーふぉー(DS) - 自分でもよく分かって無いのですが、少なくとも“Fsh”が終わるころには凪斗様信者()でしたね!((キリッ 許婚云々の話が出てきたり目が光に弱い事を明かすシーンがあったりした最後の方は発狂してました((追懐 (2017年6月2日 0時) (レス) id: efac798cd6 (このIDを非表示/違反報告)
フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» お久しぶりです、コメント有難うございます! 凪斗押しだったとは……! 本当はポンと本編を出したかったのですが、想定していたより長々としそうだったので埋め合わせで前日譚を作ってしまいました。オリジナル作品ですが楽しみにしてくださって本当に嬉しいです;;;; (2017年5月27日 20時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フェイル | 作成日時:2017年4月7日 20時