【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

＊ ページ25

仮に旅客船に乗れなければ、その時はさっさと自分の足で移動してしまうに限る。
攻撃手段用に翔が作ったクリスタルは十分に持っているし、行ける筈だ。

翔に続いて立ち上がった俊也が返したのに、朗らかに笑った前者。
後者はその翔を見て、訝し気に眉を寄せて問いを投げ掛けた。



「…………何だ、途端に生き生きとし出して……」

「いや、なんていうか……嬉しくなって来ちゃってさ!」



こうしていよいよ大都市から、まだ見ぬ地へと足を踏み出そうとしている事も
目的ある旅が始まろうとしているのも、夢を追いかけられるのも。

そしてそれらが全て、決して一人で行う訳じゃない事も。



「アーラ探しの旅、思ったより長くなりそうだなあ」



資料庫──もとい守護棟から出て、大都市の街の中で空を見上げつつ
続けて放ったその声にすら、嬉しさが籠っているのに気が付く俊也。

いや……嬉しいと言うよりかは、もう今から実行に移そうとしているのに
どこか来るべき未来を楽しみにしているかのような、そんな面持ちだ。



「……すぐに終わる夢じゃつまらないんだろう? 良かったんじゃないか」

「そうだな、その通りだ」



フッと笑って言った俊也の後、満足気に大きく頷いた翔は改めて気を引き締め直す。

これからの旅に同行しようという俊也は、相変わらず落ち着き払った普段通りの
物腰で居て味気ないが、それが却って翔の弾むような思いを冷静にもさせてくれた。

懐に幾つかのクリスタルがちゃんとある事を確認し、互いが顔を見合わせる。



「俊也。今まで何年も、誰にも見つけられなかった物を探す旅だけど……
きっと見つけてやろうぜ。他に探していて見つける可能性がある、誰よりも早くだ」

「気持ちはわかるが……焦るなよ」

「わかってるって!」



いつ命を奪われるかわからない外の世界で、焦りは何より禁物だ。
なんて忠告しても、思った通り翔の上擦った気持ちは容易には抑えられない。

それでもつい、こちらまでつられて笑みが零れるのは
自身が翔を友人だと認めている証拠だと考えても良いのだろうか。

……高々とそびえ立つ建物の隙間から見えるだけの、ほんの僅かな空色が
今日の二人の目にはやけに広々としているように映って見えた。





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