続き ページ4
「んんー……」
夜遅く、溜まった仕事を終わらせ榎並は思わず伸びをした。
もうほとんどの病理医は帰って行き、部屋の外は静まり返っている。榎並は帰る支度をし、部屋のドアを開けた。
部屋の外には誰もおらず、電気も消されている。だが、ひとつだけ電気が付いている場所があった。藤巻のデスクがある部屋だ。
何をしているのかという興味と藤巻さんに会いたいなんていう浮ついた感情で藤巻さんのデスクがある部屋をノックした。
藤「どうぞ」
藤巻の声が聞こえる。少し疲れているようだ。
「藤巻さん……？遅くまでお疲れ様です」
榎並が声を掛けると藤巻は驚いた様子で何かを隠した。榎並は首を傾げるも何も問うようなことはしなかった。
藤巻は疲れ切った様子で立ち上がる。相変わらず身長が高くガタイが良い。
藤「榎並さん……どうしたんですか」
「いや……用って物は特に無いですけど、こんな夜遅くまで働いてらっしゃるから少し心配で」
藤巻は驚いた様子で榎並を見た。まるで意外だと言わんばかりだ。
「えっ？」
榎並がその様子に逆に驚くと、藤巻は少し笑った。
藤「榎並さんいっつもあそこの部屋から出て来ませんし、出てきてもずっと無表情だから皆も僕もクールだと思ってたので、心配してくれるの意外で」
「そうなんですね……クール、か……」
榎並は視線を落とす。そう思われていることに驚いたからだ。
藤「あっ、すいません……でも僕は嫌いな訳じゃありませんから」
藤巻が慌てた様子で言う。榎並は首を振って笑顔を見せた。
「大丈夫ですよ。それより……」
榎並はご飯に誘おうと思ったが断られたらどうしようなど考えてしまってその後の言葉が詰まった。
藤「？」
「その……お仕事終わったら、ご飯でも行きませんか」
頬を赤く染めながら言った言葉は囁く様に小さくなってしまった。
藤「……良いですよ。仕事、もう終わった所ですし」
榎並の顔がパッと明るくなる。藤巻はその顔につられて笑顔を浮かべた。
藤「じゃあ、着替えるんで外で待っててください」
「はい！」
榎並は外に出て、ドアを閉めた所でガッツポーズをした。心から嬉しくて、体が熱く
なっているのが分かる。
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作者名：Rei | 作成日時：2024年3月11日 7時
