紫陽花とプルメリア ページ9
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花屋に並んだ花は何故あんなにも美しいんだろうか。ラッピングされた花とは違うどこか繊細で目を逸らしたらたちまち消えてしまいそうなあの感じ。上品とまではいかないけど守りたくなるあの可愛さ。
魅了される様に何か魔法にかかった様に深い底に落ちていってしまったのだ。
「おはよう」
気に食わない日差しが座席に落ちる。
読んでいた本には少し日焼けしたような傷んだような跡が付いていて、それを隠すように机へしまった。勧められた本はまさに自分に書かれた作品の様で何度も読んでしまって、主人公のセリフさえも覚えてしまった。
それぐらい自分にぴったりの本を目の前の人物は勧めてきたのだ。
目の前の人物はまさにこの本に出てきたプルメリアの様な人物で、汚したくない筈なのにこの手に収めて汚したくなる。薄く色付いた唇も風と遊ぶ髪の毛も全部自分のものにしたくなるのだ。それくらいこの人物は自分を魅了して堪らない。陽だまりの様な彼女を陽に沿っては歩けない器としては汚れすぎている自分が、どうにか出来る訳は無い。
「黒田君はさ紫陽花みたいな人だよね」
借りていた本を返した時にそう言った一言は、どれだけ時間が過ぎても忘れないだろう。自分はそんな男に思われてるのかと性格に似合わず肩を落とす勢いだったが、付け加えられた一言で何もかも忘れてしまったのだ。
「色んな色を見せるから何処かに行かないか心配になるんだ」
普段あいつらに見せる顔でそう言った。
この言葉に嘘も好意も含まれていないのは馬鹿でも分かる。別に紫陽花と思われていてもそこら辺の雑草と思われていても、彼女だったら許してしまおう。
紫陽花の様に取っ付き難い自分をここまで溺れさせるのは、あの本に出てきたプルメリアの庭で育った主人公に似ている彼女なのだから。
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作者名:藤の花 | 作成日時:2022年11月13日 23時