【鬼滅の刃】神様の巫女 拾壱

第94話 懴悔なんてするはずない ページ8

鼓膜を揺らす斬撃音に、手から伝わる肉を斬り落とす感触。
あがる血飛沫。吹き飛ぶ四肢。
次に聞こえるのは、聞き難い再生の音。


「あっはははは！ すごいすごい！ ここまで強いなんてちょっと予想外！ 俺の再生速度がギリギリ間に合うかどうかとか！」


笑いながら私の斬撃を避けては斬られ避けては斬られを繰り返す兄さん。再生速度がギリギリとか、嘘をつくのも大概にしてほしい。再生する度に斬り落としてるけど、次の私の斬撃が届くより先に兄さんの腕が再生する。ギリギリなんてとんでもない。あの再生速度だと私の斬撃が届く間に三度は再生できるだろうに。どこが“ギリギリ間に合うかどうか”なのだろう。

兄さんを蹴り飛ばして距離を取る。そして地面を強く踏みしめて前に跳躍、いつもの流れ。

──“銀(しろがね)の呼吸 弍ノ型 水斬り”。

斬り落とせたのは両方の肘から上と首の皮一枚。噴き出る鮮血の向こうで、兄さんが楽しそうに笑っていた。
透かさず蹴りを入れるもそれは右腕で防がれて大した威力を発揮しない。反撃されないようにとその場から跳んで退き、カチャリと刀を構え直した。


「──A」


びくりと身体が跳ねた。自分がやろうとしていることが改めて脳みそに染み渡っていく。
考えるな、考えるな。今ここでどうにかしないと炭治郎達が殺される。私の大事な人達が殺されてしまう。兄さんは必ずやる。間違いなく全員殺す。だから、ここで。今私が、ここで──。


「Aは本当に、俺を殺すつもりなの？」


兄さんを、殺さないと。

ひどく優しい声に胸が痛む。目の前の兄さんは両親を殺して、それどころか私の大事な友達まで殺そうとしているのに、情が邪魔をする。心の片隅で、「本当に兄さんを殺すの？」と私が問いかけてくる。
絶望を叩きつけてきた相手。大事な家族。友達を殺そうとしている鬼。私を育ててくれた人。
色々な事実がごちゃ混ぜになって、そろそろ吐き気を覚えそうだった。

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す