Qes,04_黒猫が囁く ページ5
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先代が床に臥せるようになってから、私はあの人と顔を合わせる事は殆ど無くなっていた。
私の居る地下牢へは広津さんが来てくれていて、最後の日に先代からの伝言を伝えに来たのも彼だった。
“今直ぐに此処から出て
それがあの人からの最後の命令だった。私は目隠しと拘束を受けたまま牢から連れ出され、市街にある住居を与えられ、マフィアから放り出された。
『第三地下牢の壁の孔に小さい鍵があって、マフィアビル近くを歩いている黒猫の首輪飾りに使うと、マイクロSDカードが見付かる筈です』
「何の話だい?」
『私の情報。マフィアに残ってた残骸ですけど、何かの為に持ち出していたんです』
「黒猫の首輪に?」
『そうです』
黒猫のテオ。
実を云えば私の飼い猫で、放し飼いにしている。勝手に帰って来て、食事して、寝ては出て行く。
「明日、探しておくよ」
『私の捕縛はいいんですか』
「もう少し泳いでいていいよ。黒猫が先だ」
『見付かるといいですね』
肩から太宰さんの手を退けて立ち上がろうとすると、グッと押さえ付けられて立ち上がれなかった。
今度は何だと思いながら見上げると、彼の鳶色の隻眼が私を見ていた。
『今日は……帰って下さいよ』
「泊まるつもりだったのだけれど」
『何で毎回……』
「相性いいから?」
『本当に最悪ですね』
その時、目の圧迫感が消えて瞳に光が入った。
あっ、と声を漏らす暇も無く私は手で目を覆い、床に顔を伏せて隠した。
『見ないで』
「寝台の上では見てるのに?」
『何時もは暗いです。此処は、明るい』
「私が触れていれば異能は発動しない。そうだろう?」
『それでも……』
それでも、怖い。
この目で光を望んではいけない。見てはいけない。
その時、ベランダの方から黒猫が入ってきた。
「みゃぁーお」
「あ、黒猫」
『テオ……』
「あー、成程ね。君達グルなのか」
そりゃあバレるか。
テオはテトテトと歩いて私の前まで来ると、ピンク色の肉球で私の頬をグイグイと押した。
『テオ、痛い……』
「みゃうー」
「すごい懐いてるけど」
太宰さんがテオに触れようとすると、彼は警戒して跳び跳ねて私の背中に隠れてしまった。
「嫌われた」
『ふふっ……あはははっ』
テオ、もう少しその態度でいいよ。
まだ、バレなくていい。
管理番号:K2513-无-〇二四二
異能力【万華鏡(バンカキョウ)】通称“百目鬼”の使用する千里眼類似異能力。“殺人千里眼”とも呼ばれる非常に危険な異能である。また、継続した長時間使用の副作用として目の痛みや発熱、一時的な視力低下・失明を招く場合がある
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作者名:綺弌 | 作成日時:2019年1月27日 1時