Kahlua and Milk (ページ9)

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♦︎黒歴史ページ9

完全に記憶の彼方へ追いやっていたことが再びやってくるとしたら、それはどんな場面だろうか。
そんなもの、それを思い起こすことが起きなければやってこない。白紙にした黒歴史が蘇るときはできれば藍色に薄くなっていてほしいっていうのは私の願望。

この目の前にいるナンパ男も、その黒歴史を白紙にできるのだろうか。

少し古いヘアセットは見てるだけで痛いのに、こんなことまでしてたら黒歴史はマジックペンで書かれてしまう。かわいそうに。

会社からの帰り道、繁華街を通らなければいけない私はどうしてもこういうことがある。賑やかなところから少し出た繁華街の末端では特に。

《私、男いるんで》

「どんな人？」

実際には男なんて数ヶ月前に親友にしばらくつくらないと誓ったばかりなのだが、もしいたとしてもこの男に言う義務は私には無いと思う。いや、絶対にない。

向かいの歩道側にある美味しそうなトンカツ屋に入っていく団体客を見て、今日トンカツにしたいな、なんて余計なこと考えるくらいにはこの男に捕まって時間が経っていた。

「ねぇ、どんな男か知らないけどさ、」

私がとうとうため息をつきそうになったとき、男の後ろにある車道からクラクションが鳴る。

私も男も思わず、そちらを向くとそこには黒いポルシェがとまっている。

私の知り合いにポルシェに乗っている人なんていないし、目の前にいるこの男にもポルシェに乗るような知り合いはいなさそうに思える。最後は偏見だけれど。

ガラス越しに見える人影を目を細めて見ると、記憶の片隅にいた人物がいる。
私の黒歴史。

《あれだけど、私の男》

「は？マジかよ、」

そそくさと去っていく男の背中を見て、最後までイタいやつだったな、と思う。

背中が遠ざかっていったあと、ポルシェのフロントドアガラスが下がっていく。

《、助けてほしいなんて言ってないんだけど》

HC「俺は船を出しただけで乗ったのはそっちじゃん」

乗る？って言いながら助手席の方を親指でクイっと指す。

ほんとなら乗りたくないのだけれど、今私には借りしかないから乗って何か話したほうがいい、という天使の声が聞こえたから乗ることにした。

《、この前はごめんなさい。今回も》

HC「まずはお礼じゃない？」
お礼してほしいな〜、俺

《、ありがとう》

ずっと私が一歩的に悪いのに、なんだか腹立つのだこの男。