Kahlua and Milk (ページ20)

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♦安息地帯にてページ20

下戸がバーにきても金にならないのは百も承知だ。まあ、そこまで飲めないわけでもなく、ただ酔い方がヒドいだけだけど。とにかく、それでもここに来るのは毎日が目まぐるしく過ぎてゆく都会のなかで数少ない癒やしの場所だから。そう簡単には譲れない。アイロンのかけられていないシャツ、申し訳程度の照明とぽつらぽつらと置いてあるキャンドルに照らされている顔は一見すると息を呑むような美形だが顔色が悪くも見える。昼の時間に会ったことがないから分からないけど、それ相応の時間に会えば血色の悪い顔色が見えるんじゃないだろうか。

JH「久しぶり？」

《久しぶりでしょ。私じゃない誰かを私と思って接客してた？もしかして幽霊？》

JH「スアちゃんがここを好きすぎるあまりに幽体離脱してきてたんだと思う」

《ちょっと有り得そうなんだけど…》
スクリュードライバーください

はーい、という声をのこしてカウンターの奥に消えていく。背中を見せながら、私は名称を知らない道具をカチャカチャとならしてカクテルを作っていく。

不健康そうなわりには肉付きのいい体格。「一応バスケをしてた」という謙遜を聞いてから納得したけど、よく今までそれを保てたものだ。顔色の悪さは、よく見ないとわからないレベルのものだけど。とはいえど、品のいい顔立ち。この顔にバーテンダーという肩書き。よくもまあできたものだと思う。多分不健康に見えるのは目の下のクマのせいだ。それさえも色気を醸し出す要素になっているので言うことはない。文句を言う前に制される。

取引先につれてこられたこのバーで、無理に飲まされていたときに助けてくれたのが、このジェヒョンオッパだった。今でも覚えてる。
「飲めるフリするの楽しい？」
相手がトイレに立った瞬間にそう言われて、しかも彼は作業しながらで、混乱してしまった。その後は、お酒をこっそりレモネードに変えてくれた。

こんな優しさを持っているのだから、余計に加点されるのだ。兄のいない私にはお兄ちゃんとしてしか見れないけれど。

飲み切る頃には使われていないコースターの上にお酒をのせてすっと差し出してくる。

JH「飲める？介抱しないよ」

《飲みたい理由ができたの》

JH「へえ、よく飲む人に出会ったとか？」

こういう無駄に勘のいいところは、原点対象にしたいものだ。