〃 ページ18
「名前……」
『僕は君が呼びやすいような名前で構わないよ』
「あ、そう」
大概、動物には好きな物を名前に付けることが多いが、いかんせん好きな物を見つけられた試しがない。物を好きになる時間すら無かった、の方が正しいが、兄に勝てる何かを探すことばかりに労力を使って“好き”なんて概念にすら目を向けた事がない。
強いて言うなら、静かに降り積もっていく雪を眺める時が一番落ち着いていた。
「風吹かない……ゆき……あ、雪に凪って書いて雪凪(せつな)。どう？」
『真っ黒い僕に雪なんて……嫌味かい？』
「嫌味じゃない。ただ俺……ずっと前から雪見て落ち着いてたから、お前といて落ち着けるくらいになればいいなってさ」
『……。分かった。じゃあこれから僕の事は雪凪って呼んでね』
一体どうして雪を見て落ち着いていたのか……何故か思い出せないが、静かな時間が落ち着くというか、誰かがずっと寄り添ってくれている感覚があるというか──。
そこで初めて、忘れていた物が何かを思い出した。
「……言葉……そうだ、ずっと誰かの言葉を大切にしてた」
『君は忘れさせられたんだね』
何気無い雪凪の呟きに耳を傾ける。
『元人間の死神って、大切なものを忘れさせられるけど……暁人くんは、何も忘れなかったって聞いたなぁ』
「……それ、どういう事」
確かに、槐 暁人という存在は「滅多に起こらないケース」だとは聞いたが、同じ損をしていないことに関しては理不尽じゃないかと感じてしまい、雪凪に聞き返すと『これは僕の憶測でしかないけど』という前置きで話し始めた。
『暁人くんの猫……小夏ちゃんっていうんだけどね、彼女は「暁人は一部の記憶が無い」って言ってたんだけど、本人は「何も忘れてないよ」って言ってたんだって。暁人くんが記憶を無くしている事を隠しているのか、本当に忘れていないのかは分からないけど、僕は“記憶を失っていること”を忘れさせられたんだと思う』
「……な、るほど」
穏やかに饒舌に語る目の前の黒猫に呆気にとられていると、『あ、そうだ』と何かを思い出す素振りをして近付いてきた。
群青色の首輪についている小さな鈴を鳴らすと、黒猫が居た場所には自分より大きな青年がいた。
『まだ恥ずかしいからフードは被ってるのは申し訳ないけど、これが人間に化けた僕の姿だから、驚かないでね』
「え、あっ、うん」
続く
お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←episode 5
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シャル＠如月唯奈(プロフ) - ハジメマシテ！ULOGから来ました、シャルといいます。小説めちゃめちゃ面白かったです！文章の書き方とか世界観とかめちゃめちゃ好みで、ドンドン読んじゃいました(笑)これからも頑張ってください、応援してます！ (2020年1月18日 22時) (
レス) id: 6e2bf13c08 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：天楽 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年6月25日 23時
