Story 13 ページ13
彼女の顔は殺意を失った
いや、それは違う、呆れに近いかもしれない。まだ明確な殺意が胸の内に渦巻いているが、表面上は狂喜的な殺意は消え、興味を失ったかのようにつまらなそうに目の前の男をジッと見つめている
彼女の心情がなぜこんなにも変わってしまったかを知るものは誰もいない
「このフロアのどっか、多分奥にいんだろ…目障りだからどこかに散って」
溜息をつき自分が武器を向けているにも関わらずなんにも反応を見せない彼女に男は苛立ちを覚えたのか舌打ちをして、奥の方に走っていく。そんな男の後ろ姿を見送りもせずに
彼女は
「……殺す気が失せた、あんな殺意つまらないし。まだいいや」
溜息をつきながら、手に持つそれを自分の座る椅子に突き刺した
切れ味が良いのか、単に彼女の力が強すぎるのかは分からないけれども突き刺したナイフは深く、深く突き刺さる。下には布が破れたせいでスポンジがハラハラと床に散っていく
……それは行き場のない殺意を人間のかわりに当てているような気さえする行為だった
まだ、殺さない。彼女はそう言った
明確な殺意が自分の中にはあるはずなのに、どこか気が抜けてくるようだ、
そして、勿体無いのだろう
ここで殺るのはあまりにも勿体無い。なぜなら、あの男の殺意はAに向けていたものではなかったから
彼女には、それがつまらなかった。
「まだ、殺さない
けど、あの女に向けてじゃなくてこっちに殺意を向けた時
あの男が自分を本気で殺しにくる時、自分を本気で殺したいって思った時
そん時は、アイザック・フォスターを自分が殺す」
その場面を思い浮かべたからか、楽しげに狂喜的に彼女は笑みを浮かべた。包帯の男___アイザック・フォスターに向けたその笑みは、楽しげに見えるが、どこか違うものを帯びている……それは勘違いか、ただの執着か
椅子から抜き取ったナイフは、鈍く光を反射しそんな彼女の顔を照らした。
その顔は相も変わらず、狂気的
9人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ