【d!】八尺の歩幅【企画短編集】 (ページ21)

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【tn】壁/ゆきみやページ21

気づいたらそこにいます。頼んでもないのにそこにいます。不思議な声を出してそこにいます。

tn｢ぽぽ、ぽ、ぽぽぽぽ……｣

今日も何かを必死に伝えてこようとします。しかも恥ずかしそうに顔を赤らめ、目を瞑りながら。

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学校からの帰り道、田んぼのあぜ道を通り壊れた祠がある道の角を曲がる。ショートカットした道の先にいつもの公園が見えた。今日も彼は立っている。

私には他の人には見えない知り合いがいる。背が高くて眼鏡をかけてイケメンで赤いマフラーをつけた軍人さんみたいな人が。

今日も必死な顔で

tn｢ぽ、ぽぽぽ、ぽぽぽぽぽ、ぽ…！｣

と言ってくる。

｢ぽ、だけじゃ伝わらないよって…｣

そう言うと彼ははくはくと口を動かしほかの言葉を言おうとする。やはりぽ、の一言しか出ないらしい。今日はもう帰る、というように手を振りどこかへ行った。

物心ついた時からか、それよりもっと前か。正確な時は分からないがいつの間にかそばにいた。彼はずっと前からここら辺に住んでる八尺様。

実害はないし、それよりも季節の花を渡してくれたり、風邪ひいたら山にある柿とか届けてくれる。優しさしかない怪異なのだ。

いつもぽぽ…としか零さない彼とのコミュニケーションはとても難しい。ここ数年そう感じるようになってしまった。子供から大人へ変わる時、昔のように無邪気にとは行かなかった。

次の日も公園に行った。大きい体を小さく折りたたみ木陰に入っている。確かに今日は暑かった。だが、夕方になっても体育座りで膝の間に頭を突っ込む勢いで首を伏せていた。

｢どうしたの…？具合でも悪い？｣

そう聞いても顔はあげずに頭をふるふると横に振るだけだった。そのあとも何を質問しても首を縦に振るだけだった。その後は何も言葉を交わさず家に帰った。いつもと違う空気に少しの不安と怖さを感じるも気の所為と思うことにした。