【d!】八尺の歩幅【企画短編集】 (ページ12)

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【kn】いいよ/ウィングページ12

※流血表現あり

「よいしょっと……ふふ、見つけた。久しぶり」

私は独り、父の実家の近くにある山の廃神社を訪れていた。
何故かって？そう、彼に会うためである。

「……随分デカなッタなぁ」
「あら、貴方には言われたくないわ。まぁでもそっか、最後に会ったのは私が5歳くらいのときだったかしらね。おかげさまで大きくなりました」

ついでに成人しました、とピースサインと共に付け加えると、彼はポンポンと頭上で弾ませていたサッカーボールを地に落とし、ぼぼぼともぽぽぽとも聞こえる声で笑った。

「そうかァ……なぁ、もうえエよな」

ニタリと口角を吊り上げた彼は私の手首を掴み、すっかり枯れてしまった御神木に私を押し付けた。

「え、と……どう、したの？」

彼の長い指がぎゅうぎゅうと手首を締め付け、私を覆い隠すように立っているせいで完全に身動きがとれない。
少し怖い。けど、どこか愛しく思えてしまう。

「俺は……愛を知らン」
「愛？」
「親に捨てラれ、野垂レ死んでこんナんにナッタのが今ノ俺や」

彼の唇は少し震えていた。怒りなのか、悲しみなのか、その両方か。私には分からなかった。

「でもお前ハそんナ俺を怖がらず、寧ろ受ケ入れ、そしテ……愛をクれた」

あぁ……だから彼は私を生かしておいたのか。

私は、彼が『八尺様』と呼ばれ、厄介モノ扱いをされているのを知っていた。大きくなってから調べたのだ。

魅入った相手は数日間の内に取り殺す。通常の八尺様はそうするのに対し、彼が私を殺さなかったのはそんな理由があったからなのか、と独り納得した。

たとえ軽いものでも、愛に変わりはない。
私は正直彼に愛を与えた憶えはないが、それでも彼にとっては嬉しかったことであり、自分で言うのもなんだが、私は彼にとって貴重な存在であったのだろう。

「俺は、八尺様や」
「……ええ、知ってるわ」
「神は俺に、気に入ったモノはナんでも手に入レることが出来る力を与えた」
「うん」

「俺は、お前ヲ気にイった」
「うん」
「けど、生かシた」
「そうね」
「……でも、もウ我慢出来ん」

「俺の中ニ、取り込ミタい」

彼はそう言うと私の首にガブリと噛み付いた。痛い。すごく痛い。肩の辺りに生暖かい液がじわりと広がるのを感じた。

「～～っ……！」
「なァ、痛いナぁ、フヒッ……いつマデ耐えれル？A」

若干視界が白む中、私は彼の目を真っ直ぐ見て決意を固めた。