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バンッ、バンッと水斗が布団をはたく音を聞きながら優羽はベッドから降り、ベッド脇に置いてあるスリッパをはいて洗面所へ向かった。
洗面台の鏡の前には緑と青の二つのコップがあり、緑のコップだけに歯ブラシが入れられている。
左足元にゴミ箱があり、その中に使い捨ての歯ブラシが捨てられていた。
「(今日は黄色の気分だったんだ。)」
と、水斗が使った使い捨て歯ブラシの色のことを考えながら、優羽は念入りに顔を洗い、歯を磨いた。
すっきりと目を覚ました優羽は、布団をはたき終えた水斗の元へ向かった。
「・・・あ、そういえば。優羽。」
「ん?」
「俺、今日出かけることになったから。・・・せっかく休みかぶったのに、ごめんな。」
「何言ってんの?大丈夫だよ。・・・そっか、それなら僕もどっかでかけようかな。」
「変なもん持って帰ってくんなよ。」
「わかってるよ。」
ははっと笑いながら自分の部屋に準備をしに戻る水斗の背を見つめ、優羽は一つ息をつく。
何気ない普通の会話も、優羽にとっては、厄介な恋人との大事なコミュニケーションの一つ。
恋人らしいことなんてできなくても、言葉で伝えあうことはできるから。
“好き”だとか“愛してる”だとか、言葉にしないと本人の気持ちはわからない。
それを普通の人は行動だけで示そうとしてしまう。
だから相手の気持ちがわからずに怖くなったり不安になったりする。
優羽たちは行動で示せない分、言葉で伝えあうから、相手の気持ちがわからずに怖い思いをすることはほとんどない。
「ちゃんと言葉で伝えてくれるって、安心するよなぁ・・・。」
ガチャ
優羽がつぶやくと同時に、水斗が自室から出てきた。
「(うん。いつも通りの水斗スタイルだ。)」
そろそろ暑くなってきたというのに、肌を出さない長袖長ズボンに、顔の半分以上を覆うようなマスク、そしていつもの薄手の手袋。
「それじゃ、行ってくる。」
「うん、いってらっしゃい。気を付けてね。」
「ん。」
カバーの付いたドアノブをひねって家を出る水斗を、優羽は姿が見えなくなるまで手を振り見送る。
ガチャン、とドアが閉まる音を確認し、優羽もようやく自分の準備を始めた。
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作者名:紅月 | 作成日時:2019年6月9日 10時