第四十話「彼女の未来」 ページ42
「え?」
彼の言葉に私は失礼な疑問で返してしまう。私の驚いた表情を見て社長はまたも申し訳なさそうな弱々しい声色で言うのである。
「彼奴の人生には私達が足枷になっている気がするのです。この間もあの子が私達の娘だから人質となって金銭を要求されたらしいのです。それにAは気負い過ぎている節がある。」
「気負ってはいないと思いますが。」
軽くそこだけを否定し、彼の話の続きをシャンパンを飲みながら聞く。
「少なくとも、彼女はもう少し自由でいて欲しい。彼女のやりたいように、自分らしい満足出来る人生を送って欲しいのです。本当に会社を継ぎたいのなら話は別ですが、私には彼女のやりたい事をやりきって欲しいと…。今のあの子は、…空っぽなのです。」
我儘な彼の言葉に不本意ながら心のどこかで「確かに。」と頷く自分がいるのを感じる。彼女には好きな本があり、好きな喫茶店がある。だが今まで話して来てふと思う。
何に向かっているのか。
彼女はその日その日をまるで同じ時間を繰り返しているかの様に過ごしている。彼女は「日常が大切。」とそのルーティンを壊さないようにしているが、それはつまり、何になりたい、何をしたい等と遠い未来のなりたい自分を思い描いていないからである。
「ならばその彼女の止まった時間を壊すだけです。」
「え?」
私はシャンパングラスを机に置き、彼を置いてこの場を去った。
彼女に会いに。
中本 side
「はぁー。」
憂鬱である。慣れないという訳では無い。ただひたすら面倒臭いのである。あの後も色々なお偉い人間に話しかけられたが私はいつも通りの態度で逃げて行く。それの繰り返しである。今後の会社の評判?そんなもの、お父様達が何とかしてくれる。何故なら、彼等は私の事なぞ気にせずに仕事をこなしていく必殺仕事人だからである。
現在、私はホテルの宴会場のベランダで一人、月を眺めている。流石にドレスで真夜中の外に居ると少し肌寒く感じる。
「先程ぶりです、Aさん。」
「おぎゃ。」
後ろから何度も聞いた事のある声が私を呼ぶ。後ろを振り向くと、月に照らされて光っている条野さんが立っていた。
「フフ、ライトアップされてるみたい。」
「…月光ですか。私神々しいです?」
「全然。で、何の用?」
彼はいつもより少し違う、優しい微笑みで私の前に屈んで、手を差し伸べる。
「今宵は月がとても綺麗です。踊るには良い夜だ。」
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肉塊(プロフ) - 冬斗さん» わーいありがとうございます〜もっと頭悪い小説にするので何卒〜 (2022年7月28日 10時) (レス) id: 9c26b5fd8b (このIDを非表示/違反報告)
冬斗(プロフ) - そう言っていただいて嬉しいです…!作品いつも楽しく読ませて貰ってます! (2022年7月28日 10時) (レス) id: 2506e918c7 (このIDを非表示/違反報告)
肉塊(プロフ) - 冬斗さん» いや草。誤字の指摘、ありがとうございます。あと自信を持って下さい。何回も謝る様な事貴方様言ってませんよ( 'ч' ) (2022年7月28日 10時) (レス) id: 9c26b5fd8b (このIDを非表示/違反報告)
冬斗(プロフ) - なってしまいます。うぅ…文章が長くなってしまいすいません…失礼しました… (2022年7月28日 9時) (レス) id: 2506e918c7 (このIDを非表示/違反報告)
冬斗(プロフ) - すいません…自分なんかが初コメでおこがましいと思いますが、第四十七話の「再会」の最後の方で『あの時は彼が』の後が『鮭の飲み過ぎ』になっていました。恐らく『酒の飲み過ぎ』だと思います。このままでは夢主の中で、条野さんがしゃけを飲んで酔う人に (2022年7月28日 9時) (レス) @page49 id: 2506e918c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:肉塊 | 作成日時:2021年9月24日 3時