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ページ36

「あーあ、退屈だなぁ」

第七師団の兵舎。やることもなく、外へ出た。
真っ青な空。吐く息は白く曇る。

当たりを見渡すが誰も居ない。
こんな寒い中、好んで外に出るものなどそういないので当たり前なのだが。

本当ならば事務の手伝いをしなければならないのだが、どうにも気分が乗らない。

どうせ仕事をするのならば、一等卒のしごきでもしたいものだ。その方が幾分か楽しめるというのに。

 ……

「よしっ尾形の見舞いにでも行くか!」
 
 
 
「……で、なんでお前がいるんだよ」

じっとりとしめった視線を、そこにいた男へ向ける。

「いや、なんでって。決まってるでしょ。百之助のお見舞いだよ。Aって賢そうに見えて、案外馬鹿だよね」

「"あ?」

「え?なぁに?なんか文句あんの?」

「そりゃ、ありまくりだが?誰が馬鹿だと?てめぇの目は腐ってんのか?」

私と、男——宇佐美の間に火花が散る。

二人とも笑っているものの、その表情は誰が見ても怒っていると分かるほどには怒りが充満していた。

「おい、何をしている」

今にも殴り合いが始まりそうなところで、声をかけられ、制止された。

「邪魔すんな、月島」
「そうですよ。今いい所だったのに」
「この間注意したばかりだろう。喧嘩をするな」

「……はあ、仕方ないな」

まぁ、私も一応見舞いに来たわけだし。

「尾形、また目ぇ覚まさなくなったな」

私たちが言い争っていたそばのベットに横たわる尾形へ視線を向けて言った。

「もうそろそろ、目を覚ましてもおかしくないはずだと、医者は言っていた」


「……そうか」

私が小さな声で言うと、宇佐美が意外そうな声で言う。

「A、もしかして百之助のこと心配してんの?」

「あ?」

眉間に皺を寄せ、何を言い出すんだという表情を宇佐美へ向ける。

すると宇佐美は「まぁ、いいけど」と言いながら出口へと歩いていく。

「戻るのか?」

私が声をかけると、戸の傍で振り返り、一言。

「仕事」

コツコツと病院の廊下に響く足音が遠ざかっていった。

「で、月島は何しに来たんだ?」

普通に考えれば見舞いなのだが、月島が尾形の見舞いになど来るとは思えなかった。

……まぁ、宇佐美もいるとは思わなかったが。

「俺はお前を呼び戻しに来たんだ」

「呼び戻しに?なんかあったのか?」

そう私が聞くと、月島は宇佐美と同じく一言。

「仕事」

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作者名:おほしさま | 作成日時:2023年12月29日 0時

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