能あるヒトは爪を隠す1 ページ13
彼らの自由な振る舞いと、依頼が終われば終わりの関係にセンチな気分になりつつ冷蔵庫の中身を開けた。
ペプシとコーヒーのボトルを取り出して、グラスに注ぐ。冷たいボトルは火照った頬を覚ますのに丁度いい温度だった。
「やっぱり、事務所行かなきゃよかったかも」
遠いアフリカの国の子供たちは満腹を知らない。だから常日頃から空腹であっても、辛いとは思わないらしい。
わたしもそうであったほうがきっと幸せだったのに。彼らに出会わなければ、彼らに触れなければ。
そうじゃない時を寂しいなんて思わないはずなのに。
「…ふう」
また溜息。いっそこんな時にこそ、兄者さんあたりにブサイクな顔だって笑って欲しかった。
『…あぁ、駄目だ。駄目だよ。君がそんな顔をしちゃぁ』
「？！」
妙にエコーのかかった湿った声がわたしを窘める。
さっきまで火照っていた体は急速に冷やされて、冷たい汗が額を滑り落ちるの感じた。
この声は、一体誰の…？
言うまでもなく、あの三人じゃないことは分かった。
凍りついたように立ち尽くすわたしを、じっとりと舐め回す視線。粘つくような声音。
本来なら備わっているはずの理性をかなぐり捨てた、本能だけの気持ち悪い感情がダイレクトにわたしへ流れ込んでくる。
怖い。
金縛りにでもあったかのように身動きがとれなかった。
けれど気配が伝わってくる。その声の持ち主が、近寄ってくる気配が。
『あぁ、なんてことだ。君はあの無邪気で男を知らない顔が1番美しかったのに…それじゃまるで「女」の顔じゃないか。そんなの駄目だ、駄目だよ。僕が欲しいのは少女のままの君なんだ』
つぶやく声が頭にキンキンとこだまする。
どう考えても生身の人間じゃない。
助けを、呼ばなきゃ。
隣のリビングでは、弟者さんと兄者さんがきっとまだ喧嘩を続けていて、その隣でおついち先生は作業をしている。大きな声さえ出さればすぐに来てくれるはずだ。
だから、声を出さなきゃ。
頭は高速で回転する。けれども、意志に反して声帯はちっとも震えなかった。
そして、ふと気付く。
いつもより何十倍も濃いものの、この気持ち悪い視線を、気持ち悪い気配を、わたしはずっと前から知っている。
「やめ、て」
自分のものとは思えないようなか細い声が、掠れて零れ落ちた。
これは、あの生首だ。ずっとわたしを見つめていたものの正体だ。
凍りついたわたしの身体に、ずしりと重みが加わった。
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萩乃 - とってもおもしろかったです！続きが気になりますね！これからも頑張って下さい！応援してます！ (2019年11月10日 14時) (
レス) id: 1860965fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雪丸205(プロフ) - とっても面白かったです！2broだとマフィアや極道ものなどよく見ますが、vs.幽霊は斬新で続きが気になります(* ´ ▽ ` *) (2018年9月10日 17時) (レス) id: ce4c87fa35 (このIDを非表示/違反報告)
鑪ﾁｬｺ(プロフ) - 遠いアフリカの国〜、の表現がこの上なく好きです。参考にさせて頂きますm(_ _)m (2018年8月4日 3時) (レス) id: 10fcfc8c85 (このIDを非表示/違反報告)
工藤蛆虫(プロフ) - しーたけさん» ありがとうございます！！嬉しくなってしまったので更新頑張りますね！ (2018年7月29日 0時) (レス) id: 3cc527ceec (このIDを非表示/違反報告)
しーたけ - 素晴らしい！めっちゃくちゃ面白くて見入っちゃいました！頑張ってください！！ (2018年7月28日 9時) (レス) id: 02fc5e93ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：工藤蛆虫 | 作成日時：2018年7月20日 16時
