幼なじみは鈍感な向井くん。【橙】

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｢A｣と呼び止める声を聞かずに着替えて出てきてしまった。


暫く歩いて頭を抱えてしゃがみ込む。



｢ああっやってもうたぁぁぁ！｣


後先考えずに出てきてどないすんのよ！こんな時間から何処行け言うねん！


でもあれは康ちゃんも悪いやろ。


いつもならハッキリ言うてくれてたやん。


彼女に悪いからって。

なのになんで今回に限って曖昧にしたん？



携帯を見たら康ちゃんから恐ろしい程の鬼電が……


｢こわっ｣


でも出る気にはなれんくて、とりあえずネットで漫画喫茶を探してみよ。


ずっと鳴り続ける携帯をサイレントにして鞄にしまった。








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結局あの後、ホテルに泊まることができて朝を迎えたわけやけど、


｢……なんやねん｣





康ちゃん無視すんなや。心配かけんな


これは相当怒ってるな。

でも康ちゃんかて悪い！

でもでも、私も……悪い。

観光する気になんてならんから、支度してホテルを出て向かったのは結局康ちゃんのお店。



｢あー、入りずらいわ…｣



店前でうろちょろしながら入るタイミングを見計らっていれば、お客さんと見送りに出てきた康ちゃん。


あ、目が合った。




｢まいどでした！また来てくださいねえー！｣



まいどって、ここは東京やで。



｢……おいこら、Aさん｣

｢……はい、｣



腕を組んで顎を突き上げてる康ちゃん。昔流行ったヤンキー漫画のキャラ真似せんでええよ似合わんから。



｢何処おったんや？｣

｢…ホテル泊まりましたよ｣

｢そうか、ならええわ｣



いい大人やからね、それくらいはちゃんとやりますよ。

計画は綺麗に無くなったからなあ。



｢腹減ってへんか？｣

｢うん、減った｣

｢こっち来ぃや。なんか食わせたるから｣



なんだかんだでやっぱり優しい。


お店のドアを開けて待っててくれる康ちゃんに｢ありがと｣って言うたら、ポンっと一度だけ背中を押された。





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