【HQ】月島くんと日向さん

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　夕方五時半過ぎ、まだ明るい帰り道を辿ると汗がじとりと流れた。思わず溜息が漏れそうなほどの暑さは脳すら攻撃する。そんなしんどい帰り道を無駄話をしながら歩いていた。


　山口はちょっと寄るところあるから、と言ってそのまま別れて一人足を進める。寄るところ、に検討はついているけど僕がなにか言うことでもないから相槌を打って別れればいい。どこか他人行儀なのは分かっているけれど、突っ込んで意味が無いことも分かっているから。





　そう考え込んでいた時。
　錆び付いた古い音が聞こえて、顔を向けた。少し小さな公園に、滑り台、砂場、ブランコ。真っ先にブランコに座る女の人が目に入る。下を向いているせいか髪の毛が垂れ下がり、またキィキィと煩く小刻みに揺れている。

　は、と空気が漏れた。



｢なに、してんのあいつ｣


　自分に患っているものの、せいか。その女の人の正体に気付く自分に呆れた。
　放っておく、そんな選択肢はいつもの自分には絶対にあった。というかこんな場合じゃなかったら必ずあったはずだ。




　なのに、

｢……ああ、もう｣



　放っておけない。らしくない自分に嫌気が差す。
　公園に踏み入れて、砂埃が小さく舞う。まだ気付いてないのが珍しい、と思った。周囲に目を配るやつだから、それも出来ないほど精神的に参っているのか、ただ気付いてないだけか。


｢……ちょっと｣

　影が伸びて、彼女にかかる。声とかかった影に、ゆっくり顔を上げた。髪の毛がはらり落ちて、すこし肌に引っ付いていた。

　上げた顔は本当に気付いてなかったように酷い表情をしていて、溜まった涙が不自然に美しいと思った。静かに流れるそれは、擦るように拭う腕に邪魔されて一時で終わりを告げる。


｢……なんでいるの｣


　発した声は意外にもしっかりとしていて、少し拍子抜けした。

｢いやそれはこっちのセリフなんだケド｣
｢……｣
｢……｣




　そのまま口を噤んだから、図々しく隣のブランコに座る。

　ここはパンザマストなんて響かないから歪に高校生二人がブランコに乗ってるなんておかしな絵面だけど。小学生でもあまり遊んだ記憶のないブランコの、錆び付いた鉄の擦れる音が数分人気のない公園に落ちていた。

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