CACAO

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「多分、鍵開かなくてかけてきたんじゃないかな。鍵替えたんですよ、こないだ」

『そうなんですか』


てっきり、加藤さんはこれからもずっと鍵は変えないままやり過ごすんだろうと思っていた。


『お話しなくていいんですか？今来てるってことですよね？』

「まぁそうですけど、また今度ちゃんと話します。今ここから出て行ったらAさんまで巻き込んじゃうし」



そっか。
もしかしたら今ドアの外にいるんだ。

加藤さんのお話を聞いてると、ちょっとその元カノさんと顔を合わせるのは怖い。


そう言えば…

『加藤さん、お引越しとか考えてないんですか？もうちょっとセキュリティしっかりしてて広い間取りのとことか…』

前から疑問だった。
なんでわざわざこんなとこに住み続けてるんだろうって。
お金が無いわけじゃないだろうし、自宅でお仕事する加藤さんには絶対狭過ぎる。



「ああ。まぁ…」

加藤さんが苦笑いしてコーヒーを一口啜る。


「もちろん考えてはいるんですけど、引越し。
でもここも案外気に入ってて。
ここじゃ絶対やってけないって訳でもないから、よっぽど近くにいい部屋見つからない限り
このままでいいかなって」


私の会社が近いという事くらいしかこのマンションのいい所が思いつかなかったので、加藤さんが気に入ってるというのがイマイチよくわからなかった。


「でも、結果的にAさんに迷惑かけちゃってるし。やっぱそろそろ本格的に新居探しすっかな…」

『いやいや、全然。迷惑なんかかかってません』

ほぼ独り言みたいに呟いた加藤さんの言葉を慌てて否定する。


確かに最初はびっくりだったけど、今は加藤さんと一緒に過ごすのが楽しいと思ってたし。


ん？
なんか私、ちょっと加藤さんのこと気になりだしてる？



「ならいいんだけど。
あのさ…Aさん。俺、Aさんと一緒にいるの結構楽しくて。もし良かったら今後もこうやってご飯食べてのんびりしたりとか、後はどっか出かけたり…
もし俺がここから引っ越しても会ってくれたりとか、

…どうかな」

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