天鵞絨の世界 (ページ9)

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明るくなると、ちゃんと目の前は海だった。

って言ってもまだ日の出前。

そっか。
ならもう少し海見てたら日の出が見れるってわけね。

こんな時間から既に活動を開始しているおばあちゃんが、この車と運転席の俺を交互に見ながら通り過ぎてった。

やっぱこんなとこに見慣れない車が一台あるのは不自然か。

通行人が増える前に退散した方がいいかもな。

かと言って、まだ後ろで寝てるAを起こすのも少しためらってしまう。

少し前に目が覚めて、俺は早々に運転席に移動してきた。

ありそうで実は見たことがなかったAの寝顔が可愛すぎたから。

何気にAの寝顔を見るのなんて初めてだし。

毎回これが隣にいたら何もしない自信はねーな、とか思ったり。

この寝顔、誰かに見せてんのかな。

普通に嫌なんだけど。

昨日から存在してる不安要素が……勝手にだけど……好きって気持ちと独占欲みたいなのを増長させてる。

あー、明日東京に連れて帰りてぇ。

あまりベタベタするのは好きじゃないから、俺意外に遠距離恋愛とかの方がいいのかもって思ったりもした。

でもやっぱダメだな。

離れたら離れた分だけ不安で仕方ない。

『あれ…シゲくん。そっちにいたの？』

後ろからAの力ない声が聞こえる。

「おはよ」

『おはよう』

振り返れば起きた直後でまだ目が開き切ってないAが、上半身を起こしてこちらを向いていた。

あー、この表情も初めて。

まだまだ知らないことばっかだな。

「ねえ、A。
やっぱ明日一緒に東京いかない？」