天鵞絨の世界 (ページ8)

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海までの道は、ほとんど街灯もなく真っ暗でカーブだらけだった。

事故っちゃいけないと慎重にここまで運転してきて、身体はバキバキ。

おまけに海に着いても目の前はただの真っ黒でよく見えない。

それでも波の音は聞こえるし、少し窓を開ければ磯の香りが鼻を掠めた。

『運転お疲れ様。
思ってたより大変な道のりだったね』

「だな」

緊張が解けて大きなあくびが出る。

『眠いよね。
てか、絶対寝た方がいいよ、シゲくん。
夜通し運転してきて、今またここまで来たんだもん』

確かに、な。

ようやくここまで来たけど、それじゃあ…

「帰りますか」

『待って』

シフトレバーを切り替えようとした手が、Aに捕らえられた。

『だから、寝た方がいいって。
帰ってからじゃなくて。今』

今…

『私もなんか眠いし』

そう言って腕を組んで目を閉じた。

あー、そういうこと。
今、ここで寝んのね。

まあいっか。
誰かが通りかかったりとかもなさそうだし。

「シート倒したら？
いや、なんなら後ろフルフラットになるし」

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いやいや。
これはダメだろ。

後ろのシートを全部倒して先に横になったAの隣に行こうとして、ようやく気付いた。

『あれ？シゲくんどこ行くの？』

「俺は運転席に…」

『なんで？』

なんでって、そりゃあ…

『2人並んでも余裕じゃない？』

いや、うん。
俺が考えすぎか。

逆に下心ありそうな感じになっちゃう？
まあ全く無いわけではないけど…

ここまで一緒に車に乗ってきたし、家にいる時はソファに並んで座ってることも多い。

なのに、どうして寝転がるとここまで緊張感が増すんだろう。

これくらいの距離感は、散々経験済みなのに。

『おやすみ』

「おやすみ…」

寝れねーわ。

そう思っていたのに、少しして聞こえてきたAの規則的な寝息を聞きながら結局寝てしまった。