天鵞絨の世界 (ページ6)

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だから車停めといても別に大丈夫ってこと？

誰かがそこに東京のナンバーの車をよく停めてるから。

しかも、近所の人とも顔見知り…

誰だよ、そいつ。

『シゲくん？』

気が付けば後ろにAが立っていた。

『もう…
何回も呼んでたのに、気付かなかった？』

「あー、ごめん」

Aが呼んでるのも、階段上ってきたのも全く気付かなかった。

『あ、カバー変えたの気付いた？
こないだ私の布団のも新調したんだ』

「そっか。いいね」

まさか今急に出てきたその「誰か」の為に新調したとか？

そいつもこの部屋使ってんの？
それとも…

まだ何もわかってないのに、良からぬ妄想だけが一人歩きし始める。

『早く下行こ？メロンもらったんだ』

Aは足早に階段を下りてった。

ダイニングテーブルの上の皿には、半分にカットされたメロンがラップに巻かれて乗っていた。

「近所の人？
なんか、声が聞こえてたから…」

『そう。
二軒隣のおばあちゃんなんだけど、食べきれないからって半分分けてくれたの。
おばあちゃんもひとり暮らしで…』

さりげなく、さっきの会話が聞こえてたことをアピールしてみたけど、Aは全くその事には触れなかったから俺もそれ以上は何も言わなかった。

それにしても…

東京から来ている、というのが何より気になる。

東京には絶対行かないとか言っといて、実はそいつに会いにちょくちょく行ってたりして…

『やっぱり眠いんでしょ、シゲくん』

半分を更に二等分にして食べやすくカットされたメロンが目の前に置かれる。

「いや、次の小説のこと考えてて…」

必死に平然を装って口の中に一切れ放り込んだメロンはおばあちゃんがひやしておいてくれたらしく、思ったよりキンキンだった。