天鵞絨の世界 (ページ5)

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東京は中学校の時に修学旅行で行ったきり、らしい。

人が多いのとか言葉が通じなそうなのが怖いとか言って、挙句の果てにこっちで使ってるお金とかクレジットカードが使えるのか不安、とか言ってきた。

使えるでしょうよ。
なんなら中学んとき使ったことあるでしょうよ。

Aは空いてる時間が結構あるし、なんなら長めに滞在して、俺が仕事の時は東京観光でもって思ってたけど無理だった。

こんなに不安だらけの人を1人で東京の街に放てない。

というわけで、Aに会うには俺がここに来るしかない。

この町も結構好きだからいいんだけど、欲を言えばもっと会いたい時に気軽に会えたりしたらいいんだけどな。

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『そういえば、シゲくんの車。
初めて見たけど思った以上に大きいね』

「そう？」

まぁAの軽自動車に比べれば、ね。

高速とか長距離を走るにはいいけど、Aの家の近くの狭い道は少し大変だった。

駐車場はめっちゃ広々だったから良かったけど。

「乗ってみる？」

『乗りたい』

「じゃあドライブする？今日の午後か、明日。
てか、あんな堂々と停めといて大丈夫？近所の人とかに何か言われない？」

『大丈夫大丈夫』

ならいいんだけど…

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「部屋に荷物置いてきちゃうわ」

買い物から帰って、着替えやらノートパソコンが入ったバッグを2階の部屋に運ぶ。

Aが学生時代に使っていたこの部屋に毎回泊まる。

学習机にシングルベッドがある4畳半の部屋。

あ、布団のカバー変わってる。

Aは1階の和室で寝てるからこの部屋は普段使ってないはずだけど、ちゃんと掃除もしてくれている。

今回は1階の部屋で一緒に…ってなんねーかな。
って、実は毎回思ってるけど。

「Aちゃーん」

部屋を出ようとしたら玄関で誰かがAを呼んでて、思わず動きを止めた。

多分、近所のおばあちゃん。

「これ、メロン。食べて」

『わー、ありがとう』

下の会話はハッキリと聞こえてきた。

おすそ分けってやつね。

東京のマンションじゃ絶対ないやつ。
ちょっと羨ましい。

「そこの車、いつも来る人かい？
車変えたの？」

『あー、うん。そうなの』

「大変だね。東京からこんなとこまで」

いつも来る人？

一瞬自分の事かと思ったけど、違う。

俺は近所の人に会ったことないし、車で来たのは今回初めて。

てっきりここを尋ねてくるのなんて俺くらいだと思ってた。

しかも、東京から？