天鵞絨の世界 (ページ4)

今日:2 hit、昨日:7 hit、合計:25,909 hit

4. ページ4

.

『私なんかが、加藤さんと仲良くさせてもらっていいんでしょうか。
しかもこんな田舎に来てもらっちゃって…』

翌月、連休が取れた俺はAの元を尋ねた。

「私なんかが、って…
別に俺は芸能人じゃなきゃ関わらないって事は無いし。いや、むしろ同業じゃない方が一緒にいて楽かな」

さりげなくアピールしたけど、まあ伝わってはいないだろう。

「ついでに、たまには東京から離れたいし。
でも、ほんとにいいの？泊めてもらっちゃって」

『この家の半分くらいは使われてないですから』

両親は南の島に移住して今はこの一戸建てに一人暮らし。

始めは冗談かと思ったけど、どうやら本当らしい。

「そういえばちゃんと聞いてなかったけど、仕事は…」

今日は平日だし、もしかしたら俺に合わせて休んでくれたとか？

『今はしてません』

「そうなんだ」

電話ではアルバイトを少し、なんて言ってたけど辞めちゃったのかな。

『冬になったらスキー場でアルバイトして、時期になったら大根の収穫です。
今の時期は特に何もしてません』

そんな生活あんの？

これまた、俺の興味をめちゃくちゃそそる話。
東京にいたらまず遭遇できないやつじゃん。

そっか。
家賃もかからないし、一人暮らしだからそれで行けるのか。

でも家の向かいの駐車場として使ってる土地もきっとこの家のっぽいし、実は不動産収入とかもあったりして…

ここは完全に俺の知らない世界で、もはや聞いたことないエピソードがまた出てきたっておかしくなかった。

──────────

『そういえば読んだよ。先週出たやつ』

「あー、それはどうも」

連載中の小説の最新話の事を言ってるんだろう。

読んでほしいとは思うけど、いざ読まれたと言われると途端に恥ずかしくなる。

『あとどれくらい続く？』

「連載がってこと？まだ当分続く予定だけど」

『やった。あと数ヶ月は楽しめるね』

初めて会った時は、ジャニーズの誰かってくらいで、俺がNEWSのメンバーである事も、ましてや小説を書いてることすらも知らなかったくせに。

いつの間にか俺の作品は過去のものも全部読んで、NEWSのCDやDVDも買い揃えてた。

『いつまでいれるの？』

「明後日の夜に仕事が入ってるから、明後日の朝までかな。
ついでにAも一緒に東京行く？」

『行かない』

「だろうね」

これまでにも何度か誘ってみたけど、Aが東京に遊びに来たことは1度もなかった。