天鵞絨の世界 (ページ11)

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いつもは二階の部屋で少し執筆を進めるけど、今回は一度もパソコンを立ち上げずに終わった。

この後も一緒に東京行くっていうのに、別行動はほとんど取らなかった。

いや、今まで会いに来といて別の部屋で仕事してたのがおかしかったのか。

「東京はマジで中学生の時ぶり？」

『そうだよ』

今回は後部座席に座ってもらっているから会話がしづらい。

しかも、高速道路じゃ声が中々聞き取れないし。

でももし新幹線だったら別々に乗らなきゃいけなかったし、これで良かったのかも。

そう考えると、平気でAを助手席に乗せられるあの町はやっぱ最高じゃん。

当初の予定では夕方からの仕事にギリギリ間に合う時間に出発する予定だったけど、一緒に帰れるとなって前日の夜のうちに出発して、さすがにこちらでも通行人がほとんどいないくらいの時間に到着した。

Aを連れて帰ることになるとは思ってなかったから、リビングが少し散らかってたのを慌てて片付けた。

「とりあえず座って？」

落ち着かない様子でキョロキョロしてるAをソファに誘導する。

「そんなに広くないでしょ？
あと、そっちに寝室と書斎があるだけだし」

『広いよ。綺麗だしオシャレだし。
今までうちに泊めてたのが恥ずかしいんだけど…』

「そんなことないよ」

俺はこのマンションよりAの家の方が断然好きだし。

と言うより、あの町ごと好きだけど。

「って、もうとっくに寝る時間だよな」

一応寝室に変なものが無いか確認したけど大丈夫。
カバーも洗濯したばっかだし。

「A、そっちのベッド使って？」

リビングに戻って寝室を指差す。

『シゲくんは？
シゲくんもそっちで寝るんでしょ？』

「いや、俺はソファで寝るから安心して」

『安心って、別に嫌じゃないよ？
嫌なら来ないし』

なにそれ。
ドキッとするんですけど。

「いや、いつもAの家じゃ別々の部屋だから」

『それは寝室の他にベッドがある部屋があるからで、別に一緒にいたくないわけじゃないし。
シゲくんがいいなら同じ部屋で寝たっていいよ』

わー。
今から寝るって時になんてこと言うの、この人は。

ちょっと俺、ぶっ倒れそうなんですけど。