ΨBootis☆Y☆ (ページ7)

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『日本語話すの久々だから。なんか変じゃない？』

「全然」

去年までは他に2人の日本人が同じ会社にいたけど今はAさん1人らしい。

本当は自分も2年で日本に戻る予定だったけど、希望して延長してもらってるんだってAさんは言った。

「そんなに居心地いいんだ。こっちは」

『それもそうだけど。日本に戻るのがちょっと…』

「なんで？」

『まぁ、色々あって…』

そこまで言ってAさんは口を噤んだ。

何となくこっちからは聞きづらくて黙っていたら、しばらくして

『そろそろ出よっか』

って、グラスに残ったビールを飲み干した。

結局、なんで日本に戻りたくないかは分からないまま。

まぁいっか。

それにしても、日本より暗くなるのが遅いからまだ夕方くらいと錯覚してしまうけど、もうすぐ22時になるところだった。

『ここはヨーロッパの中でも治安がいい方だけど、みんなお酒大好きだから。金曜日の夜はちょっと気をつけた方がいいよ。
外国人が少なくてアジア人は目立っちゃうから、絡まれちゃったら面倒だしね』

ここも俺が支払う気満々だったのに、そんな事を言いながら、Aさんはさっさと支払いを済ませてしまった。

『ホテルの名前と場所、ドライバーに伝えてあげるから』

大通りに出て、停車中のタクシーの列に向かって歩き出す。

「Aさんも一緒に乗ってくんでしょ？」

『私の家はすぐそこだから』

「えー。待ってよ」

一歩前を歩くAさんの手を掴んで立ち止まる。

てか、手冷たいし。

なんだか暖めてあげたくなって、握る手に少し力を込めた。

「いくらすぐそこでも、金曜日の夜は気をつけなきゃならないんでしょ？
アジア人は目立っちゃうんでしょ？」

さっき言われたことをそのまま言い返したら、Aさんはそうだねって笑った。

『でも、私は大丈夫だよ』

また歩き出そうとするから、立ち止まったままで抵抗した。

「もう、これでバイバイ？」

最早、ただのワガママな子供みたいになってるけど、ここでタクシーに乗ってしまったらもう二度と会えない気がして、手を離すことが出来なかった。

『でも…手越くん、ホテルに戻らないと…』

「俺は明日の朝までに戻れば大丈夫。
Aさんは？」

『私は明日は休みだから。なら…
朝まで一緒にいようか』

「いいの？」

自分から駄々こねといて、思わず聞き返してしまった。

『私も、これでバイバイは嫌だから』