70話(焦凍side) ページ26
貴「焦凍くん…ごめん、ね…。"約束"、守れなくて…」
焦「馬鹿野郎、今から死ぬみてぇなこと言うなよ。まだ助かるかもしれねぇだろ」
貴「……無理だよ。体の、限界は…私が、一番分かってるから…ゲホッ、ゴホッ」
焦「おい、無理して喋んな」
少し落ち着かせようとAの右手を包み込むように握ればAも弱く握り返してくる。フルフルと首を横に振り、Aは更に話を続けた。
貴「…あのさ、焦凍くん。最後に一つだけ…っ、ワガママ言ってもいい？」
焦「……何だ」
貴「そこの引き出しにね、私の…スケッチブックが、入ってるの。それの中身を…A組の皆で見て欲しい。完成したら、見せるって…上鳴くんとも約束、したし…ケホッ」
そう言えば文化祭の思い出をスケッチブックに描いてるとあの時言っていたっけか。必死に願いを伝えてくるAの目をしっかり見つめ、「任せろ」とだけ言った。
貴「あり、がと…。短い間だったけど…私、焦凍くんや、A組の皆と楽しい時間を過ごせて、本当に幸せだった…。私と出会ってくれて、ありがとう…。焦凍くん、愛してる」
焦「……ああ、俺もだ。俺もAを愛してる。だから…だから、」
"死なないでくれ"。
Aの瞳から涙が零れ落ちて流れた。自分の手より細くて小さな手の指が絡まり、安心したような笑顔を見せたAは、そのまま眠りにつくように目を閉じていった。
同時に、無機質な音でAの心音を知らせていた機械のランプが突然点灯し始める。異常事態発生というように、すぐにナースセンターからバタバタと数人の看護師が部屋にやって来た。
「酸素が薄くなってます！」
「血圧も低下してる！酸素濃度上げて！」
看護師たちのそんな会話が聞こえ、Aはもう死にかけているのだと嫌でも察してしまう。
妹「お姉ちゃん！？お姉ちゃん！！」
「ご家族さんですか？Aちゃん凄く危険な状態なので、名前を呼んで頂いても宜しいですか？」
妹「わ、分かりました！お姉ちゃん！聞こえる！？死んじゃ嫌だよ！ねぇ…っ！起きろよこのクソ姉！！」
大粒の涙を流しながら訴えかける片割れの隣で、俺も必死にAの名前を呼ぶ。右手を強く握り直し、戻ってこいとただその一心で。
……けれど、それは叶わなかった。
俺たち三人の必死の呼び掛けも虚しく、Aは静かに息を引き取った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 292人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レーズン(プロフ) - ユリの花さん» コメントありがとうございます！感動してもらえて良かったです…！ハンカチをどうぞ！(？？)3部も更新始まりましたので、是非最後まで宜しくお願いします ー！ (2021年8月23日 22時) (
レス) id: ec6c9ca54e (このIDを非表示/違反報告)
ユリの花(プロフ) - もう途中から泣きながら読んでました…。続きが楽しみです。頑張って下さい！ (2021年8月23日 0時) (レス) id: 871fb938ae (このIDを非表示/違反報告)
レーズン(プロフ) - あいのみさん» コメントありがとうございます！うわああああハンカチをどうぞ！(？？)好き嫌い別れそうなこの作品をここまで読んでくださり本当に嬉しいです…！でもまだ3部がありますので、もし良ければ3部の方も宜しくお願いしますっ！！ (2021年8月22日 23時) (レス) id: ec6c9ca54e (このIDを非表示/違反報告)
レーズン(プロフ) - なつみさん» コメントありがとうございます！あっやっぱり書いてた方がいいですかね！？生きるのか否か予想しながら読む人もいるかと思って「好き嫌い別れます」とだけ書いてたんですが…そうですよね、はっきり書いた方が分かりやすいですからね…！ご指摘もありがとうございます。 (2021年8月22日 23時) (レス) id: ec6c9ca54e (このIDを非表示/違反報告)
レーズン(プロフ) - 浜辺海さん» コメントありがとうございます！予想してくださってるの凄く嬉しいです！ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、何があるかは是非3部で確認して頂けたらと思います！読んで下さり本当にありがとうございます！！ (2021年8月22日 23時) (レス) id: ec6c9ca54e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：レーズン | 作成日時：2021年8月21日 23時
