命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

十二 ページ12

キャロルはホットドックとカフェオレを持ち、がつがつと口に含んだ。いつもは、もっと女性らしくおしとやかに食べているのだが、あれがあったからには仕方ない。
「今回の件は、胎盤の問題だけでなくiPS細胞の淹れすぎも関係しているのか？」
「ええ。さっき、別の新聞で羊と人間の皮膚が余分にあまっているって書かれてた」
「この新聞には？」俺はキャロルがさっきまで熱心に読んでいた新聞を掴んだ。
「醜いですって。カスタルの妻はそう言って、あんまりだって夫が」

　俺は泣き声をあげだしたキャロルの肩をさすった。キャロルは今センシティブになっているようだ。キャロルは赤ん坊をこんなことにしたくて、大学で実験をしたんじゃない。幸福な夢を実現させたくて研究をしたのだ。‘問題にしてはならないこと’が、問題になり、恐れていたことが現実になった。
「キャロル。君は何も悪くない」
「言い切れる？ 私がiPS細胞で生物を作る実験に成功した第一人者なのよ」

　俺は黙り込んだ。手で顔を覆うキャロルの肩をさすり続けた。そうするしかなかった。
　生屋の仕事で蛇とシマウマ、ライオン等の生物をかけあわせた新生物を作ったことがある。(依頼者はこれをキマイラや魔物と呼び、俺達は命令に従い数えきれないほどの命を奪ってきた。生屋は殺屋と関連することもある)これは人間の細胞をかけあわせることも可能だ。だから、人間と他の動物をかけあわせてしまう時が来るだろうとキャロルは七年間も恐れていたのだ。
　人間であって、人間ではない生物が今後どうやって生きて暮していくのだろう。

　いや、その可能性はないだろう。誰がそんな生物を育て、生涯を見送ってくれる？ 病気にかかれば、どんな治療をしてやれば良い？
　俺達としては触れたくもない問題だった。

　深夜三時を少し過ぎだ頃に仕事場に戻ってこれた。四角いボザール型をした仕事場(兼自宅)のすぐ隣にある車庫にポンコツ車を停め、キーを回してエンジンを切った。

　助手席ではキャロルが新聞を身体に巻き付けて寝息をたてていた。これが幸せであるのか不幸であるのかは……。
　俺はキャロルの胸元にある新聞を一枚とった。かさっという音と共にキャロルはうっすらと目を開けた。

「ついたぞ」
「もう？」
「一旦、あの事は忘れよう」
「私達は違法はしてないけれど、大きな罪をおかしたわ」
「そうかもしれない。でも、俺達は今、やるべきことをしよう」

十三→←十一　キャロルの激怒

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