命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

三十六 ページ36

私はバイクから降りて、車庫に足を運んだ。芝生を踏むとふにふにという柔らかい感覚が足を伝わる。
　古くて傷がついた緑の軽車と、黒色のベンツ車が肩を並べて停まっていた。緑の車の方は大学に来ていたので見たことがあるが、漆黒で高級感溢れる車を目にするのは初めて。明らかに異次元の代物だ。


　二台の車の隣にバイク一台分のスペースがあり、そこに突っ込むことにした。中に入ると冷えた空気が肌を射した。一歩一歩進んで行った車庫は床がコンクリートになっていて、視覚的にも冷たさが伝わってきた。停めて気づいたが、意外と上下左右にまだ余裕があった。


　玄関まで行ってチャイムを鳴らし、数秒後にドアが開いた。
　グレーのセーターを着たロバートが顔を出し、ドアを大きく開けて、顎で入れと合図をした。私を見た時、一瞬だけ驚いた顔をしていた。

「おお」
「よう。来てやったぜ」
「そりゃあご苦労さん」

　ロバートに続き中に入った。光沢のあるフローリングに、丸型白テーブルの下に白く小さな絨毯がひかれている。その近くには五人程座れそうな白のソファがあり、その奥にはキッチンがあった。壁は凸凹した白い壁だが、下の五十センチメートル程は木で埋め尽くされていた。

　清潔感のある家で、これまた埃ひとつみつからない磨き切った家だった。
　ロバートは玄関の隣にある電話の受話器を肩と耳に挟んで、メモ帳で何かを書いていた。でもアイツは話すことなくメモを取り続けている。

「どこで待ってれば良い？」
「そのへんで。何か話すことでも？ 話す気になった？」
「お前が私に話したいんじゃねーのかよ」
「そうかもな」

　矛盾したやりとりにムッと来た。私は大きな音をたててソファに腰を降ろして中指を軽くたてた。

「ビアンカさぁ、ここで仕事する気あるー？」
「給料良いんだろ？ 就職先も決まってねーし、別にもうここで良いよ」物憂いに言った。

「なんだよー、その諦めたような言い方。ここは食事も出すし寝る所も提供するよ。キャロルがそう言うだろうから。俺もそれには賛成だしな」

　ロバートは少々笑い声を含めてそう言った。
　私は右足を左膝に置いて、ポケットに入っていた煙草をくわえて火をつけた。

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