【ヒーロー】河村拓哉 ページ24
僕はヒーローになれなかった。
なりたいと思ったことはないし、
なれると思ったこともないけれど。
僕には随分と連絡の取っていない幼馴染がいた。
常に周りに人がいて、僕とは正反対の幼馴染。
それでも、僕が弱った時には迷わず助けてくれようとしてくれる、ヒーローみたいな幼馴染。
扉を開けたら目の前で彼女が泣いていたから。
夜中にずぶ濡れの状態で突然家に尋ねてきたから。
だから僕は気づいたら彼女を中に入れていた。
けれど、僕に縋ろうと手を伸ばしてきた君に、
僕は気付かないふりをして離れてしまった。
伸びてきた右手の薬指に光る物を見てしまったから。
深夜2時、今僕に与えられた役目はただ風邪を引かないように介抱して居場所を提供するだけ。
何かがあってはいけないと強く心に刻みつけた。
刻みつけすぎて、酷く傷んだ気がした。
「ほら、タオル。」
反射的に背を向けて離れてしまったのを誤魔化すように、大きめのバスタオルを持って彼女の元へ。
伸ばしかけていたその手は既におろされていた。
「……あり、がと、」
「別に。とりあえずある程度拭いたらあがれば？」
「……うん。」
昔交わしていた彼女との会話は、
ほとんど一方的なものが多かった。
どちらかの話をただ聞いて、時折相槌を打つだけ。
それも、僕は聞く側の方が多かった。
友達や幼馴染なんかより、
愚痴、相談相手という方がしっくりくるだろう。
こういう時、どう声をかければいいのかわからない。
なんて声をかけるのが正解なのだろうか。
1人で悶々と考えつつ、慣れたように風呂を沸かし、
替えの服と彼女が好きな温かい飲み物を用意した。
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作者名：ユズナ x他1人 | 作成日時：2015年4月5日 3時
