ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

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「電気、消すぞ」


　いつものその声が落ちてくる。


「今日も泊まるの？」


「当たり前」


　電気が消えて、縁側から入る月明かりだけになる。


　私も課題小説を読んでいたものの、まだ半分程しか進まなかった。


　速読のみなと兄は良いよな、羨ましくなってしまう。


「六花は本当は此処が俺の部屋であることを知らない」


「……なにそれ」


　ふふっと思わず笑ってしまう。


　思わずみなと兄の声に耳を澄ましてして聞いてしまった。


「みなと兄、まだ起きてる？」


「なんだよ」


「まだ一緒に話しててもいい？」


「話による」


「明日、一緒に宿題しててもいい？」


「嫌っつっても居るんだろ」


「……だって私、みなと兄のこと好きだもん」


　幼稚園児のような子供なら無邪気でカワイイ台詞なのだろう。


　今の私から出た言葉はどんな風にみなと兄に受け取られるのか。


　不安もあったけど、やっと言えた一言だった。スッキリした。


「……ありがとう、照れる」


「ぶっ」


　ガバリっ！


　そんな音がスピーカーから出て来そうな程に起き上がった。


「な、何言ってんの？」


「お前こそ何言ってんの？」


　みなと兄は背中を向けていて表情が分からない。


　元から顔を見て感情を読める人種ではなかったが、少しでも手掛かりになるならみたい。


　私はみなと兄の布団をはぎとり、


「みなと兄!!」


　と大声で叫んだ。


　真っ青な甚兵衛を着たみなと兄は、震えてもおらず酒臭くもなくいたって平常だ。


「ねえ……顔見せて？」


「や・だ」


「……っ」


　布団から出て、隣の布団に移動する。


　みなと兄の肩を右手でガッチリ捕まえて移動できなくする。


　薄暗いけどなんとなくみなと兄の顔が見えた。


　また、ガバリ！ と音がしそうな程に今度はみなと兄が起き上がる。


　寝ていると思っていたので吃驚である。


　みなと兄はぼけーっとした様子もなく、「ちょっと来い」と蚊帳の外へ行った。

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