＊episode32＿が ん ば れ ！ ページ34
頭をよぎった言葉に、ばっと離れる。
涙でにじむ視界に、ぼんやりと驚き顔のもりくんがうつる。
情けない。情けない。情けないっ。
しゃっくりも出てきて苦しい呼吸。
それを整えようと、目を瞑れば、
先程の友達の嬉しそうな顔とあのときの観客の顔が交互に浮かんでは消える。
ぎゅうっと自身を抱き締め、押し込めていると、
ぽんぽんと優しいぬくもりが頭にふってきた。
誰か......なんてもう顔をあげなくてもわかる。
少しだけ体の力が抜けた。
「ほりちゃん。もし、ほりちゃんが少しでも
舞台に立ちたいというなら俺は全力で応援する」
「......ん」
「ほりちゃんが安心できるように近くで見る。
なんかいってくるやつがいたら、
そんなの聞こえないくらいほりちゃんを叫ぶ」
「......う、ん」
ポタポタと地面に染みができる。
本当に情けないな。
でも......ここでうずくまってるほうがみっともない。
グイッと涙をぬぐったとき、ガサリッと音がした。
「いたあああっ！！」
「ひえっ！！」
振り向く前に響いた大声。
へんてこな声が出て恥ずかしくなる前に、
ガクガクと両肩をつかまれ揺さぶられる。
「あんた今まで何してたのよっ。泣いてたのっ？！
メイクとれてんじゃないっ！！ 早くたてっ！！」
「ご、ごめんな、うぐっ」
「ちょ、ほりちゃんが目回してる！！」
遠慮ない力に、ぐるぐる目が回る。
それに気づいたもりくんが慌てて止めてくれたので、倒れることはなかった。
ややぐったりとしていると、
「ほら、早くっ」と手を差し出される。
それに体が強ばる。
だが、
「ほりちゃん」
「あ......」
覗かれる瞳は、やっぱり優しい。
交わる視線に、泣きそうになるのをぐっと耐え、
友達に顔を戻し、そっとその手をとった。
逃がさないようにしっかりと手をひかれる私は、
なんとなく振り返る。もりくんに振り向く。
彼も私の方を見ていて、ぐっと親指をたてて満面の笑み。
トクン、と心臓が鳴った。
___「ほりちゃんは“勇者”だよ」
___「ちゃんと強くて勇気がある」
かつていわれた言葉とともに、
眼鏡越しでは見られない淡い“何か”がパチンっと弾けた。
＊episode33＿あ り が と う→←＊episode31＿どこまでも一緒に。
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作者名：星蛍 | 作成日時：2020年3月31日 14時
