*episode19_自分の根幹 ページ21
「中学のとき、初めてダンスの大会に出たの」
忘れもしない。中1のあの日。
周りの音が消え、視線だけが刺さる。
鳥肌と震えが止まらなかった。
ぐっと下唇を噛み、口を開く。
「それまで大勢の前で踊ったことなんてなくて、足が止まってしまった」
「......」
チームメイトが困惑しているのがわかった。
観客が怪訝そうにしているのがわかった。
わかったけど......動かなかった。
......怖かった。
不満そうな不服そうな視線が、怖かった。
「それ以来、人前というのがもっと苦手になって」
「もしかして、眼鏡も関係ある?」
「......うん」
真剣な顔をしたもりくんに、
もう私の一部として定着してるそれを外す。
薄いガラス越し。
それでも直よりもましだから、とつけ始めた。
「なんかね、安心するんだ......」
「......」
眼鏡のテンプルをつまみながら、照明にかざす。
私も何が変わるのかわからない。
けど、私の中では確かにあるのとないのとでは違かった。
ぼんやりと宙を見上げていると、
横からのびてきた手に眼鏡が奪われる。
驚いて振り向くと、優しく微笑むもりくん。
「もりくん?」
「じゃあ、これはほりちゃんの精神安定剤か」
「......そうかも」
的を射た言葉に頷く。
もりくんは優しい笑みのまま、続ける。
「でも、ほりちゃんはこれがなくてもちゃんと強いよ」
「え?」
「ほりちゃんの言葉を借りるなら『勇者』だね」
いつぞやの試合でいった言葉に目を丸くする。
どこが強いのだろうか?
どこが勇者なのだろうか?
たった一度の失敗で折れ、
早々に自分の殻にこもることを選んだ。
逃げてばっかりの弱虫。
強さや、ましてや勇者などには程遠い。
それなのに......どうしてそんなに優しく微笑むのか。
私は無意識に胸のタイを握りしめた。
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作者名:星蛍 | 作成日時:2020年3月31日 14時