〈３〉愛を運ぼう【夏油傑】

…３ ページ29

 


(猿共(さるども)のために、浅上さんが泣(な)く意味があるのか？ いや、無い)

 私の中ではそう結論(けつろん)を出せる。だが、彼女は違う。

 ――無力だ。私は何もしてあげられない。とても悔(くや)しく思う。だから、せめて。

「私には何も出来(でき)ない。それは解(わか)っているよ。それでも。それでも。今は君の傍(そば)にいよう」

 そう言葉を零(こぼ)せば、彼女が私の身体(からだ)に腕(うで)を回し抱(だ)き付(つ)いてくる。

 私に抱き付いている彼女の腕に力が籠(こも)った。






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「私には何も出来ない。それは解っているよ。それでも。それでも。今は君の傍にいよう」

 オレを抱き締(し)めると、しばらくしてソイツがそう言葉にする。

 オレはその言葉に、気持ちの中の何かが溢(あふ)れ出す。ソイツの身体(からだ)に腕を回し、その身体(からだ)に抱き付いて、ギュッと力を込(こ)める。

 溢れ出す涙(なみだ)。その胸板(むないた)に顔を付けて静かにオレは泣き続けた。

 出てくる涙のままに、オレは泣いた。

 じいちゃん、ばあちゃんを含(ふく)める家族以外の前で泣いたのは多分、これが初めてだっただろう。







 オレは回していた腕を離して、胸板から顔を離す。

「……――落ち着いた？」

 ソイツが少し身体(からだ)を離して、オレを見ると訊(たず)ねてくる。

 オレはきっと目元(めもと)が赤くなってるだろうと思って俯(うつむ)きながら頷(うなづ)く。家族以外に見られるとか癪(しゃく)すぎて。


「水分が必要だね。オレンジ100%飲むかい？ 買って来させたんだ」

 その言葉に、わざわざ好物(こうぶつ)の飲み物を用意してくれたのか、と思った。少し、嬉しく感じた。

「……飲む」

 そう答えれば、ソイツは立ち上がる。



 

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