〈３〉愛を運ぼう【夏油傑】

４話 衣服 ページ17

 


「そういや、今何時なわけ？」

 やっと離れたソイツに訊(たず)ねる。

「今は…１２時半過ぎ位だと思うよ」

「腹減ってきたんだけど」

「必要な物を買いに行くついでに、昼も食べに行こうか」

「そう出来(でき)るなら助かる」

「まだ帰って来れないのか聞いてみるよ。ここで少し待ってて」

 そう言ってソイツは部屋から出て行くと襖(ふすま)を閉(し)める。


(…広い部屋)

 畳(たたみ)の和室はオレの家のリビングや自分の部屋より広かった。

 オレは光の入って来る窓(まど)に近づく。縦(たて)に長く、大きな窓だ。そこから時折(ときおり)、優しい風が入ってくる。

 オレの肩上(かたうえ)まである短めの髪(かみ)が、風が触(ふ)れる度(たび)、和(なご)やかに動いた。


(結構(けっこう)高いわ…)

 見る感じ２階何だろうけど、それにしても高さがある。

 空はオレの地域みたいに青々として晴れていて。

 ――ああ、ダメだ。

 その青々としたオレの地域と変わらない空を見ると、家族を失ったあの人達の姿(すがた)が思い浮(う)かぶ。

(！)

 人の気配(けはい)がして、後ろを向けばソイツがいて。


「そろそろ戻(もど)ってくるみたいだね。出かけようか」

「…分かった」

 オレはやっとの思いで身体(からだ)を動かす。窓から離れて、ソイツのいる部屋の入り口に向かって歩いた。






「孔(コン)、出発してくれ」

「ったく、人使いの荒(あら)いヤツだ」

「そういうなよ。街中(まちなか)に呪霊に乗って行くのはリスクがあるだろう？」

「まあな」

 そう言う運転席に座るスーツの男性。車が出発する。


「てか、何でアンタが隣(となり)なわけ？ 助手席(じょしゅせき)に乗れよ」

「浅上さんを気遣(きづか)ったつもりだったんだけど、ダメだったかい？」

「気遣ったって何を」

「後ろで独(ひと)りは必要の無いことを考えるだろう？」


 

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