〈２〉愛を運ぼう【夏油傑】

…２ ページ8

 



 心象風景が解除された以上、ここの悪霊はもう大丈夫だろう。数々の悪霊の死骸(しがい)を見るに、その男が祓(はら)ったに違いない。

 心象風景を作れる悪霊を倒せる腕前(うでまえ)なら、後は任せて大丈夫だろうと一瞬もしないうちに考え、オレは来た道をそろりそろりと気付かれないように戻ろうとした――

「ねえ、君誰？」

 その声を理解した途端(とたん)、オレは出せる限界で走ろうとした――


「逃げないでよ」

(！ コイツも速い――！)

 高身長のソイツはその輝く青色の瞳でオレを見下ろす。その手には赤黒い指を１本持っていた。

 オレは内心焦(あせ)る。助けに来た事を後悔(こうかい)しそうだった。


「術式があるってことは君も呪術師？ なんでこんなとこにいるの？」

 僕が来る前からいたわけじゃないよね。と訊(たず)ねられる。

(術式ってどういうこと――)

 意味が分からなかった。オレには術式なんてモノは無い。
 
「聞いてる？ 質問に答えてよ」

「通りすがりの呪術師って事じゃダメでしょうか」

 思考しながらオレは反応する。


「…ウソだね。僕は目がいいからウソくらい分かるよ」

「ここで呪霊の被害(ひがい)にあったって情報を掴(つか)んだので、祓いに来ただけです」

「それは本当なんだろうけど、他に隠してることあるよね」

「私の事がそんなに気になりますか？ ただの呪術師の事がそんなに？」

「じゃあ、どこ出身の誰か教えてよ」

「あいにく、呪術高専には通ってません」

「格好(かっこう)からしてそうだろうね。なら歳は？ 名前は？」

 佐藤とか田中とか山田だとマズイだろう。そう思ってオレは浮かんだ名前を口にした。


「２０です。名前は林水(はやしみず)」

「それもウソ。そんなに素性(すじょう)を教えたくない？」

 オレはその言葉に何なんだコイツと訝(いぶか)しむ。

「そういう貴方こそ何者でしょうか？」

「僕？ 僕は呪術高専４年の五条悟」

「そうですか」

「で、君は？」

「さっきも言った通り林水です」

「仮にそれが本当だとして下の名前は？」

(優尾――優香。これにするか)



 

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