〈２〉愛を運ぼう【夏油傑】

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「相変わらずで父さん悲しい」

 受け流された事にそう言う父さん。オレは目を瞑(つぶ)って出発するのを待つ。

 エンジン音がして、車が出発すると、父さんはオレに向かって言う。

「相変わらず夏油っていう男はAに付きまとってるの？ 父さんは家に上げてる事今も許してないからね」

 何かされてからじゃ遅いんだよ！ と言う父さん。


「運転に集中しろよ父さん。オレだって家に上げたいわけじゃないわ。――しつこいんだわアイツ」

「Aには優尾(ゆうび)がついてるだろう。万一は無いさ」

 オレが言うと母さんがそう言う。

 補足(ほそく)しておくと優尾っていうのは打ち解けた巫女が付(つ)けた九尾の名前らしい。優しい尾って書くからには、多分、優しくあって欲しいと願って付けられたんじゃないかと思うけど、九尾はその甲斐(かい)もなく捻(ひね)くれ者だ。


「俺はAの一人暮らしだってイヤなんだよ！？ 家から大学なんて通えばいいのに！」

「マサ、いい加減(かげん)子離れしろ」

 父さんに対して言う母さんの言葉に、母さんの言う通りだわ、と言ってオレは同意する。ちなみに、父さんの名前は雅斗(まさと)っていう。

「死ぬまで一緒がいい！」

「マサ、さすがにキモいぞ？」

 オレは父さんの懐(なつ)かしい調子にウザいと思いつつ、そんなやり取りを聞きながら外の景色を見ていた。


『相変わらず煩(うるさ)い小僧だ』

「そう言うな、優尾。マサは愛情しか無いだけさ」

 母さんには九尾の声が実態(じったい)が無くても聴(き)こえる。九尾と打ち解けた巫女の生まれ変わりなら出来て当然なんだろう。知らないけど。


『フン。やはり食い殺(ころ)しておくべきだったわ』

「俺褒(ほ)められたんだけど、九尾何か言ってるの？ まあ、俺の悪口なんて知ってるけどね！ 聞こえないから知らない知らない！」

『食い殺(ころ)すか』

「やめろ優尾。マサも挑発(ちょうはつ)する発言をやめろ」

「え！ これ俺が悪いの！？」

 母さんの言葉に煩い父さんに対して、父さんうるせぇ。とオレは零(こぼ)す。

 別の意味で地獄(じごく)だと思いながら、オレは道中を過ごした。



 

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