〈２〉愛を運ぼう【夏油傑】

１話 母との共闘 ページ2

 


 スマホから着信音がブー！ ブー！ と鳴り響(ひび)く。

 浅上菖蒲(あやめ)、と書かれた画面。右手で掴(つか)みすぐに応答する。

「もしもし」

『ああ、A。突然(とつぜん)なんだが、明日母さんと父さんは神奈川に向かう事になった。じいちゃんばあちゃんちに行く準備をしてるところ悪いが、Aはどうする？』

「――何かあったわけ？」

『ああ。神代(かみしろ)先生の情報なんだが、つい先日、廃墟(はいきょ)病院を解体してるところ、作業員が悪霊らしきモノに襲(おそ)われたらしいんだ。そこは今立ち入り禁止になってて、生還者(せいかんしゃ)も僅(わず)かだったそうだ』

 母さんは続ける。


『生還者は病院で化け物に襲われたと話した。結果今は精神科にお世話になってるそうだが、どう考えようと悪霊の仕業(しわざ)だろう』

「神奈川なら行ける距離だから向かうってわけ？」

『神代先生の頼みでもあるからな』

 その後は？ とオレは訊(たず)ねる。


『おまえが来るなら直(ちょく)で向かおうと思うが？』

「分かったわ。何時に迎(むか)えに来る？」

『１０時くらいにそっちに行くよ』

「ん、分かった」

『じゃあ、明日な』

 頷(うなづ)いて、また明日、と口にして。そのまま切る。

 この先、狂(くる)った運命が更(さら)に動くなんて、オレは考えもしない――





＊
＊
＊



 ８月の２日土曜、１０時前。オレは玄関(げんかん)のドアの外で車が来るのを待っていた。

(あっつい)

 曇(くも)りなのに、８月だけあって朝から暑い。

 白いＴシャツに黒い英文字の並んだ上の服に、水色のラインが縦に２本入った黒いジャージの半パンという、運動部の女子みたいな格好(かっこう)でオレはいた。

 オレんちの白い車が到着(とうちゃく)するのを見て、オレは玄関の中に入る。そして玄関に置いてあった自分の荷物を持って、玄関の外に出る。鍵(かぎ)を閉めた。


「おはよう、A。変わらずだな」

 助手席から出てきた母さんの言葉に頷(うなづ)いて、荷物を車の後ろに仕舞う。


「おはよう、私のA」

「はいはい」

 運転席の後ろの後部座席に座り、父さんの相変(あいか)わらずのセリフを受け流す。



 

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