流転と夢幻

28　想い（伏黒side） ページ33

今まで一切教えてくれなかった
昔の話をAさんはしてくれた

俺は両親の顔すら知らない

幼い頃に大切な両親を呪いに殺されること
悲惨な現場を見ること
がAさんにとって、どれほど辛い事だったか想像できない


だが、そんな思い出したくもないような辛い過去を淡淡と話すAさんを、改めて強い人だと思った

それと、同時にどんどん膨らんでいく
押さえ込んでいた
消そうと思っていた、感情___


「……俺は善人だけを助けます」
「うん」



答えてくれたのだから自分も答えなければ






いや、違うな
自分のことをAさんに知って欲しいだけだ



「軽蔑しますか？」



愚問だと思った
Aさんが俺の答えを聞いてそんなものをするはずがない


昔からの付き合いだから、それぐらい分かる



けど、聞きたかった
Aさんの言葉で、その声で




「何故？正解のない問いなんだ
その答えを、ましてやその答えを出したその人を軽蔑する理由がどこにある」


そんな返答に自然と口角が上がる

案外、自分は単純な奴だったんだな


「Aさんは真っ直ぐですね。揺るぎない」


憧れていた
昔から



「そんなことないよ。迷って悩んで苦しんでる」
「そんな風には見えないです」


決して見せてくれない姿
いつか、俺に見せてくれるだろうか



「君達の前ではカッコつけたいもんなんだよ」



そう言ってAさんは
優しく
綺麗に笑った


「そう、ですか」



あぁ____









　







やっぱり、好きだ______







Aさんのことを
知れば知るほど
この想いは強くなっていく



ただの憧れがいつの間にか変わっていた

もっと近くに、そばにいたい、と
隣に立ちたい、と

だが、そんな事は絶対に無理だと決め付けて
その気持ちに蓋をした

Aさんとあまり関わらないようにした



「恵も迷って悩んで苦しめばいいよ
それは決して悪いことじゃないから」


認めるのも認めないのも
どちらにしても苦しいのだ
ならば____




　

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