８話 ページ10
「......彼女たちがいた島に、その影があったと。テゾーロも優秀だ。君たち海軍が欲しい情報は、誰かの損にならない程度に分け与えてくれる。そして彼の目が正しければ、四肢のない女性を連れてカンヌとリリーは消えた。その女性とは、本来レイナの魂が宿されていた体だろうね。」
駒として扱うと言ってたからには、生かす気はあるんだろうけど。男は推測を述べながら、砂糖を十個程度入れた珈琲を飲み干す。糖尿病にならんのかとサカズキは言うが、とっくになってると言う男に呆れ、ため息をつく。
男の名はアンデルセン。彼が書く物語は完成度が高く、しかしオカルト本は気味が悪いと言われている。その名はどちらの意味でも広く知られており、莫大な資産を得た彼は各地を旅しながら、自分の名が知られていない島で低価格で本を売ることで、徐々に知名度を獲得している。
今日の彼は、海軍本部にてとある海賊を待っていた。言ってしまえば取材だ。新世界という海で確かに存在した、今はリゾート建設の土台となった島国。その歴史を知るためだ。
「センゴクさんが余計な口出ししたから、海賊と手を組むことになった。君も大変だねぇ。隠居人が自由人過ぎて。」
「思うてなかろうが......！」
「とにかくだ。君は外に姿を見せない方がいい。僕の勘だとね、レイナという魂もじきに三つの色に恵まれる気がするんだ。今まで感覚でしか扱えなかった二色に加え、王の素質がある者にのみ与えられる究極の色......彼女個人にも、価値はある。君のストレスも増す一方さ。」
ごちそうさま、とカップを置き、彼は部屋を出て廊下の窓から外を眺める。眼前の海から二隻の船がこちらへ戻る様子が見えた。片方は海賊船、自身が求める人物が乗る船だと気付き、気分が高揚した作家は窓から飛び降りる。
今会いに行くよ、私の運命の人と。
虚なる瞳、常に虚空を見つめてきた者。それは自分がそういうものだと意識して書いたものを、現実のものにしてしまうペンを持つ男だ。
そして、重度の甘党である。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
