４６話 ページ48
ランを見送り、彼女はただ一人、王宮跡に残った。そこでキャッキャと無邪気に笑うリリーを眺めながら。リリーはこちらに敵意も何も向けてないようで、Aが花を指先に乗せてみると人間らしく笑った。
知識通り、図鑑通りであれば。この花に人間らしさといった要素などなく、お腹が空いたと繰り返し言うだけの存在。人間を捕食すること以外に、この花に目的はない。しかし目の前にいるリリーは人間と同じ声で、人間と同じ表情で、人間らしさしかない要素でお喋りをしている。さすがのAも花を気味悪がったのか、花を振り払おうとするとリリーが問いかけてくる。
「目の前で死んだ父親と母親、欲しい？」
子供のような、しかし無機質なその声は、彼女を悩ませるのに十分すぎた。餓死した父、とうとう声を交えることもなかった母。その二人が欲しいかという問い。しかし子は親に愛情を抱いており、死ぬ寸前まで介護をしていた。あの祭りの夜も、スレットに連れていかれるまでは。
Aは少しだけ、彼らとの思い出を巡ることだろう。そこに愛を与えられた記憶はなく、自分からもそれらしい愛を与えれた覚えがなく、ただの駒として利用されかけていた覚えしかない。子供はどんな親でも求める、愛しているなんて言うが、未練すらない。暴力を受けたわけでもあるまいし、恨みすらもなかったのだ。蘇らせる理由など、今さら。
「......少しだけ、蘇らせてくれるか。私が思うに、量産されたお前には本物の力がある。黄泉の国から私が蘇ったように、本当にあの二人も蘇るなら。ほんの数分でいい。話してみたい。」
「いいよ！じゃあ人間ちょうだい！それか腕とか足！頭だけでも！」
「私の足を持っていけ。」
それとは別に、Aは両親に聞きたいことがあった。このまま出血死してしまう前に、自身のもう一つの未練を終わらせるために。
意識がほんの数秒飛び、なんとか顔を上げる。どんな手を使ったのか、そこには紛れもなく自分の両親がいた。だが二人の表情を見て、Aは落胆する。結局量産された花はただの偽りの存在であり、そこから産み出された自分達も偽りの存在。
何故そう判断したのか。両親が自分に笑いかけていたから。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
