４３話 ページ45
死ぬ間際になって、ようやく体が動き始めたらしく。どうしてか見逃されたアンデルセンは、この状況をどう打破するのかとニヤニヤしながら彼らを眺めている。助かる方法なら一つだけあるが、当の本人は夢を見失って生きる気力もないと言う。誰が自分達を助けてくれるのか、それはすぐに分かった。しかし一人は迷ったくせに頼っていいのかと、一人は裏切った上で頼ろうなど図々しいのではないかと留まってしまい、ランだけが意地で這いつくばって、彼女を起こそうとした。
レイナ、起きてください。何が君を起こさないのですか。私たちは君の何を奪ってしまったのですか。奪ったものは返すから、どうか目を開けて。私の可愛い娘。
どれだけ起こしても、レイナは起きない。一筋の涙を流す彼女の心情を理解できない己が恥ずかしいランだったが、原因は恐らく海軍への不信感。自身を裏切った者への怒り、どうせ叶わないだろう平穏。ランはそれらの可能性を危惧していたにも関わらず、気付けば蚊帳の外だった。
守られてばかりの父親。国を滅ぼした男。自分が背負うのは汚名ばかりで、子の命など守れず。子供に苦しみを背負わせてばかりなのはもう嫌だと泣き叫んでも、レイナの手はピクリとも動かない。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿過ったのは、レイナが守りたかったもの。同盟の条件として、彼女が提示したもの。それが失われるのを目の前にすれば、この子は起きるのではないか。
「......私は、とっくの昔に、死んだ男です。Aを生かせなかった人だ。今さら自分の命など、惜しくはない。」
ランは毒針を自分の身体中に刺し、唐突に巡る毒の勢いに倒れそうになるも、それをレイナに見せつけるように立ち上がる。その血は一滴、また一滴と彼女の顔に溢れ落ちていく。
あなたが起きないなら、大事にしていたものをここで全部殺してやる。あなたの人生を本当に意味のないものにしてやる。そう言って、ランは次にスレット、コビー、Aと、一人ずつ毒針を突き刺していく。彼の毒針は効果の強いものだ。すぐに毒が回って死ぬだろう。
彼曰く、これはただの自暴自棄かもしれない。しかし自分が築いたものを一度に壊されるぐらいなら、レイナという子はキレながらもそれを修復しに来るだろうと。
「ふざけん、なよ」
「なら......早く、助けて、ください。」
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
