３９話 ページ41
「......本当に趣味が悪い。困難を乗り越えてこその物語、しかしそれを望んだのも私だね。彼女に血を操る能力があれば、皆にも危害が加えられる。さっさとカンヌとリリーを見つけ出し、殺す。それでいい。」
それを逃がさないぐらいなら海軍でもできるでしょ。息を吐くように悪態をつき、レイナはさらに島の奥へと進む。夜の森ということもあって、彼女の姿はすぐに見えなくなった。レイナがいた肉体をアンデルセンが観察すると、至るところに怪我、痣があるのが分かる。船上では見られなかったもの、この島に上陸してからできたものだろう。
この短時間で彼女は力を二つ手に入れた。確実に、一人でも敵を殺せる力を。レイナという人格がどれだけ生き急いでいるかが目に見える。それに加え薬の過剰摂取による、肉体の限界。そもそも戦いすら厳しいのも、馬鹿でも考えれば分かることだ。
「(俺はどっちを選べばいい？)」
未だ動かない右足を擦りながら、レイナが消えた方角とAを交互に見つめるスレット。どちらも一度は好意を持った相手、どちらの肉体も共に過ごした時間がある。そもそも今のレイナに、家族への情が存在するのかも分からない。
極論。どちらを救い、どちらを捨てるか。二つを救おうなんて甘い考えは捨てるべきだ。今のスレットにはそれができない。レイナは二十年近く共に旅してきた仲間であり、家族であり、妻。死んだはずのAは叶えるのが難しい夢を語り、その先の未来まで聞かせてくれた人。死ぬべきはどちらなのか分かっているというのに、彼は未だに迷っている。
「......逃げないから、離れろ。お前に触れられると反吐が出る。」
「わ、悪い」
「それは何に対しての謝罪だよ。顔の原型がなくなるほど殴ったとき？火で炙ったとき？虫を食わせたとき？ゴミ箱に閉じ込めたとき？大人に誘拐されても無視したとき？書いた論文を全部破ったとき？それともこの現状？......どんなに言い聞かせても、結局私の心は砕かれた。謝ったところで、何も変わらん。もう関わるな。」
お前を選べば許されるのか、それとも。
甘い考えばかりが彼の思考を支配し、ついには考えることすら許されなくなった。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
