３６話/髪を操る女 ページ38
海軍を責める気はない。海軍は仕事をしただけ。しかし同盟は守らなかった、失望した。頼ろうと思っていた戦力がなくなった以上、この島に残存するであろう何かを頼りに戦う必要がある。いつまでも守られようとするだけの小さな私の精神を、より強固なものとするためである。
約束だけでも確実なものにするため、邪魔者はすべて殺す。そのための手段を得るのなら、私は悪魔にだってなると決めたのだ。恐怖はない。後悔はない。一度生きると決めても、それもできる限りの範囲。必要ならばこの命も土台にして彼らに駆け上がらせる。私は常にそういう考えで戦場を生き延びた、ただの偽りの善の人間だ。
結局はクロ、彼と同じなのだと思う。平穏を求めるために他人を蹴落とすという選択は、まさに彼そっくりではないか。現に私は、静かな生活を望むためにすべてを裂こうとするカンヌも、自分に害を成した者へ復讐しようとするAも蹴落とそうとしている。
そうだな、馬鹿にもわかるように言うか。
「これは競争だ。より多くの人間を蹴落とし、自分が高みへ上り詰めるための。」
「レイナの高みは平和......笑える偽善だな。また私の真似事か？」
「余裕があれば、また真似事でもしようと思うよ。海賊の子だという理由で処刑されたエースは不憫だった。彼のようにそういうものとして産まれたから、というだけで差別される子を、一人でも多く救いたい。そのためなら、政府も殺す。そういうあなたは？復讐の高みなんて、健常者の私にはよく見えない。」
「狂人に狂人の考えが読めるわけないだろ。私は目先の欲を満たす。」
「......わかりやすい答えをありがとう。」
結局自分の夢が一番かわいい。その点、麦わらは優秀だ。彼は目先にあることから目を背けず、かつ夢を叶える一歩手前まで来た。その一歩は大きいだろうが、彼にはそれを歩む力がある。
私たち選ばれなかった者に、そんな力はない。だから他者を蹴落としてでも進まなければならない。未だ愛せぬ息子と、次世代を支えるべき者の未来のため。それから、私がただ静かに暮らすために。あれは邪魔だ。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
