２５話 ページ27
死人の体で生き続けている自分に、とうとうその時が訪れたのだろうか。それともこれは罰なのか。もしそうだとしたら、受け入れるしか選択はないだろう。半ば諦め気味だったレイナだが、こうして思考できているということは、まだ生きているのかと小さな希望を抱ける。
ずっと遠くから、自分の名前を呼ぶ声。その声がするであろう方角へ体を向けるが、背後の何者かの気配を感じ、すぐに振り向く。
「レイナ、しばらくここで休んだらどうだ。ここは永遠の空間......お前が声の方向に向かわない限り、現実の時間は進まない。」
「......A？あなたなの？」
「正確には違うな。まあ座れ。この焚き火、案外暖かいものだぞ。」
穏やかな笑みを浮かべるA。彼女の話を聞くに、レイナの目の前にいる彼女は本人ではない。レイナの中で構築された、Aとしての自我そのものだという。レイナの弱さが反映しているのか、少し弱々しい姿のようにも思える。
ここに残らせたのは、ここに残って逃げ続けた方が幸せではないかという考えを共有したかったらしく。今のレイナにそんな提案はできないなと、残念そうに笑った。
どうして自分はここにいるのか。それを聞くと、彼女は簡単な話だと言う。長い航海と訓練の疲れで短い眠りについているだけだ、と。
それからしばらく二人で語り合い、これまでの冒険を共有する二人。やはり記憶は完全に共有できていないのか、時々彼女だけが楽しい記憶を持ち、レイナが痛みの記憶だけを所持している時がある。例えば彼女は人を殺したときの優越感を。レイナは、追い詰められたときの孤独感を。共有しなくてよかったと安堵するレイナであったが、逆に彼女は共有できなくて寂しかったと語る。
どうやら、レイナの思うAはどこか歪らしい。しかしその歪な彼女こそが正しいAなのだろう。自分が憧れたそれは、復讐心で満たされなかったものだから。
「......居心地が悪そうだな。戻るか？」
レイナの嫌な顔に気付いたのか、Aが声をかける。その言葉で思い出したかのように、レイナはすぐに声のした方角へ向かおうとした。
「............」
「レイナ？」
「あなたはこれからも、ここにいるの？」
「いるさ。しかし二つの人格がこうして顔を合わせた以上、お前は選ぶ必要があるね。私をここに封印するか、これから私として生きていくか。いつまでも逃げれると思うなよ。」
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
